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賃貸の退去時にどこまで掃除する?原状回復の考え方と費用負担の線引き

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退去日が決まって荷造りを始めたものの、「部屋の掃除はどこまでやればいいのか」で手が止まっていませんか。水回りのカビや換気扇の油汚れを前にして、「ここまで落とさないと敷金が戻らないのでは」と不安になる方は少なくありません。

実は、退去時の掃除と原状回復の費用負担については、国が公表している共通の考え方があります。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)で、貸す側と借りる側が事前に理解しておくべき一般的な基準が示されているためです。

この記事では、当メディア編集部が国土交通省・消費者庁・裁判所などの公開資料を調査し、「掃除をどこまでやるか」ではなく「どこまでが借りた側の負担と考えられているか」という線引きの考え方を整理しました。個別の請求が妥当かどうかを判定するものではありませんが、契約書を読み直し、立会いの場で落ち着いて話をするための土台にはなるはずです。

読者
来月アパートを退去します。前の住人からもらった部屋もそこそこ汚れていたのに、出るときはピカピカにしないといけないんでしょうか…?
編集部
国土交通省のガイドラインでは、原状回復は「借りた当時の状態に戻すこと」ではないと明記されています。まずはその考え方から、順番に見ていきましょう。

【一言でいうと】賃貸の退去時、掃除はどこまでやればいい?

掃除機をかける様子
写真はイメージです

結論から言うと、退去のために専門業者と同じ仕上がりまで磨き上げる必要は、一般的な基準の上では想定されていません。国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)のポイントとして、原状回復は賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないと明確化し、いわゆる経年変化・通常の使用による損耗等の修繕費用は賃料に含まれるものとしています。

一方で、同ガイドラインのQ&Aには、借りている人には日頃の通常の清掃や退去時の清掃を行うことに気をつける必要がある、という記載もあります。掃除は「やらないと即座に違約になる」性質のものではありませんが、やっておいたかどうかが後の判断に影響しうる、という位置づけです。

退去前の掃除の考え方 早見表

ガイドライン本文(第1章の別表1・別表2)に例として挙げられている項目を、退去前の行動に置き換えて整理すると次のようになります。

掃除・作業の内容 ガイドラインでの位置づけ(例示) 退去前の目安
ゴミの撤去・掃き掃除・拭き掃除 「通常の清掃」として賃借人の原状回復義務の欄に挙げられている 退去日までに一巡させておきたい
水回りの清掃 同じく「通常の清掃」の内容として挙げられている 同上
換気扇やレンジ回りの油汚れの除去 同じく「通常の清掃」の内容として挙げられている 同上
専門業者による全体のハウスクリーニング 賃借人が通常の清掃を実施している場合は賃貸人の負担が妥当と考えられる、と例示 借りた側が自分で手配する前提にはなっていない(特約がある場合を除く)
エアコンの内部洗浄 喫煙等の臭いなどが付着していない場合は賃貸人の負担が妥当と考えられる、と例示 同上
クロスの張替え・畳の表替え 経年変化や通常の使用による損耗だけであれば賃借人の負担で張替える必要はない、とQ&Aに記載 自己判断で補修・張替えをしない

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)のダウンロード同ガイドラインのQ&A(2026年8月時点)

ただし、これはあくまで一般的な基準です。契約書にクリーニング費用などの特約が付いている場合は扱いが変わりうるため、早見表だけで自分のケースを判断しないようにしてください。

国土交通省ガイドラインが示す「原状回復」の考え方

ガイドラインは、退去時の原状回復をめぐるトラブルを未然に防ぐため、賃貸住宅標準契約書の考え方・裁判例・取引の実務などを考慮して、費用負担のあり方について妥当と考えられる一般的な基準をまとめたものです。平成10年3月に取りまとめられ、平成16年2月と平成23年8月に改訂されています。

その中で原状回復は、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。裏を返せば、通常の使用の範囲で生じた古さや傷みは、この定義に入らないという整理です。

図解
当メディア編集部作成

「通常の使用」を言葉で定義するのは難しいため、ガイドラインは損耗・毀損の事例を次の4つに区分して負担の考え方を示しています。このうちBとA(+B)については賃借人に原状回復義務があるとしているのが、負担を分ける中心的な線引きです。

区分 内容 原状回復義務の考え方
賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの 賃借人の原状回復義務には含まれないとされている
賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの 賃借人に原状回復義務があるとされている
A(+B) 基本的にはAだが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの 賃借人に原状回復義務があるとされている
A(+G) 基本的にはAだが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの 賃借人の原状回復義務には含まれないとされている

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について(2026年8月時点)

さらにガイドラインは、BやA(+B)にあたる場合でも、そこには経年変化や通常損耗が含まれていることを踏まえ、建物や設備の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させる考え方を採用しています。長く住んだ部屋のクロスに借主負担が生じたとしても、新品同様に張り替える費用をそのまま負担する前提ではない、ということです。

ガイドラインは「法律」ではなく一般的な基準

ここは誤解が生まれやすいところです。ガイドラインは国土交通省が示す一般的な基準であり、それ自体が契約内容を直接書き換える法律ではありません。公式ページの「利用にあたって」でも、賃料が市場家賃程度の民間賃貸住宅を想定していること、賃貸借契約締結時に参考にしてもらうものであることが明記されています。

すでに契約を締結している場合については、一応現在の契約書が有効なものと考えられるため契約内容に沿った取扱いが原則であり、契約書の条文があいまいな場合や契約締結時に何らかの問題があるような場合に、ガイドラインを参考にしながら話し合うよう案内されています。つまり、最初に開くべきは記事ではなく自分の契約書です。

掃除と原状回復はどうつながるのか|善管注意義務の考え方

クロスで拭き掃除をする手元
写真はイメージです

掃除の話が原状回復と結びつくのは、「善管注意義務」という考え方を通じてです。ガイドラインのQ&Aでは、建物の賃借人は社会通念上要求される程度の注意を払って賃借物を使用しなければならず、日頃の通常の清掃や退去時の清掃を行うことに気をつける必要があると説明されています。

そのうえで、通常の掃除を怠ったことによって、特別の清掃をしなければ除去できないカビ等の汚損を生じさせた場合は、善管注意義務に違反して損害を発生させたことになると考えられる、という例が挙げられています。飲み物をこぼしたままにする、結露を放置してシミを発生させる、といった例も同様に示されています。

ガイドラインが「通常の清掃」として挙げていること

では「通常の清掃」とは何を指すのか。ガイドライン第1章の別表2では、設備・その他に関する賃借人の原状回復義務として、ゴミ撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り清掃、換気扇やレンジ回りの油汚れの除去という内容が「通常の清掃」として記載されています。

あわせて同じ表には、クリーニングについては経過年数を考慮せず、賃借人の負担となるのは通常の清掃を実施していない場合で、部位もしくは住戸全体の清掃費用相当分とする、という考え方が示されています。裏返せば、通常の清掃を済ませてある状態であれば、ハウスクリーニング費用をそのまま借主が負担する前提にはなっていません。

難しい薬剤や道具を使い切る必要はありません。キッチン・浴室・トイレ・洗面台の水回りと、換気扇やコンロ回りの油汚れを一巡させるところまでを目安に、無理のない範囲で進めるのが現実的です。落ちない汚れを力任せにこすって傷を作ると、かえって別の負担につながる可能性があります。

掃除の有無が関係しにくいもの

別表1では、賃貸人の負担となるものの例として、家具の設置による床・カーペットのへこみや設置跡、テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)、下地ボードの張替えは不要な程度の画鋲・ピン等の穴、日照などの自然現象によるクロスの変色、機器の寿命による設備機器の故障・使用不能などが挙げられています。

反対に賃借人の負担となるものの例としては、賃借人が清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合のガスコンロ置き場・換気扇等の油汚れやすす、同じく風呂・トイレ・洗面台の水垢やカビ等、結露を放置したことで拡大したカビ・シミ、喫煙等によるヤニ・臭いなどが挙げられています。

ただし、これらは区分の考え方を示す例示です。実際にどちらの負担になるかは、損耗の状態や経過年数、契約の内容などを踏まえて当事者間で確認するもので、記事の例示に当てはめて「自分のケースはこちら」と決めつけないことが大切です。

判断が分かれるケース|ハウスクリーニング特約と契約書の確認

調べ物をして検討する女性
写真はイメージです

退去時の掃除をめぐって最ももつれやすいのが、契約書に付いているクリーニング特約です。ガイドラインのQ&Aでは、クリーニング特約について、①賃借人が負担すべき内容・範囲が示されているか、②本来賃借人負担とならない通常損耗分についても負担させるという趣旨および負担することになる通常損耗の具体的範囲が明記されているか、あるいは口頭で説明されているか、③費用として妥当か、といった点から有効・無効が判断されると説明されています。

同Q&Aでは、特約の内容が契約締結にあたって説明されていたことなどを踏まえ、専門業者による清掃を実施しその費用を負担する旨の特約が明確に合意されていると判断された裁判例が紹介される一方で、「ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」旨の特約について、通常損耗等についてまで原状回復義務を認める特約とは言えないと判断された裁判例も紹介されています。クリーニング特約が有効とされない場合もあることに留意が必要、というのが公式の記載です。

また、賃借人に不利な特約は、賃借人がその内容を理解し契約内容とすることに合意していなければ有効とはいえないと解される、という説明もあります。要するに、「特約があるから必ず全額払う」とも「特約は無効だから払わない」とも、一般論では決められないということです。

掃除をしないまま退去した場合に何が起こりうるか、敷金精算の明細をどう読むかは、別の記事で詳しく扱っています。

契約書のどこを見るか

  • 「原状回復」「明渡し」の条項……借主が何をして返すと書かれているか
  • 特約欄・覚書……ハウスクリーニング費、鍵交換費、消毒費などの名目と金額の記載があるか
  • 金額の書き方……定額か、実費か、単価表が添付されているか
  • 敷金・保証金の条項……返還の時期と、差し引ける項目の書き方
  • 入居時に受け取った書類……物件状況の確認リストや「入居のしおり」が残っていないか

退去前に実際にやること|掃除より先に決める4つの段取り

部屋を片付ける様子
写真はイメージです

掃除に取りかかる前に決めておくと、当日の慌ただしさがかなり減ります。順番に片付けていきましょう。

1契約書を開き、解約通知と立会いの日程を確認する

解約の申し入れ期限、鍵の返却方法、立会いの有無は契約によって異なります。掃除の計画は、この日程が決まってから逆算するほうが確実です。

2入居時の記録を探し、今の状態を写真で残す

ガイドラインのQ&Aでは、入居時・退去時に双方が立ち会ってチェックリストを活用し、写真を撮るなどして物件の状況を確認しておくことが、トラブルを避けるために有効な方法だと説明されています。もともとあった傷や汚れの記録は、後から取り直せません。

3「通常の清掃」を一巡させる

ゴミを出し切り、掃き掃除・拭き掃除をして、水回りと換気扇・コンロ回りの油汚れを落とす。ここまでを一巡できれば、ガイドラインが例示する通常の清掃の範囲はおおむねカバーできます。落ちない汚れを削り取ろうとせず、時間は仕上がりより網羅性に使いましょう。

4間に合わないときの選択肢を早めに決める

残った時間と作業量が釣り合わないと分かった時点で、優先順位を切り替えるか、片付け・清掃を外部に頼むかを決めます。家具や家電を置いたまま引き渡すと、処分にかかった費用を後から請求される場合があるため、残置物は最後まで残さない前提で組み立ててください。

この4つのうち、①の解約通知から立会い・鍵返却までの事務手続きの流れ、④の時間切れが見えてきたときの優先順位と当日でも間に合う依頼先は、それぞれ別の記事で扱っています。退去時のクリーニング費用がどのくらいの幅になるのかも、あわせて読んでおくと判断しやすくなります。

請求に納得できないときの相談先と制度

書類の整理・保管の様子
写真はイメージです

精算の内容に疑問があるときは、まず内訳を確認するところからです。ガイドラインのQ&Aでは、賃貸人には敷金から差し引く原状回復費用について説明義務があり、賃借人は原状回復費用の内容・内訳の明細を請求して説明を求めることができる、と説明されています。

退去時の立会いで確認のサインをしていた場合についても、賃貸借契約書に原状回復に関する特約がない場合は、賃借人の故意・過失等によるものでない損傷についてはそもそも負担する必要がなく、その旨を主張することができる、という記載があります。サインをした=すべて確定、ではないという整理です。

それでも管理会社や貸主との話し合いが進まないときは、公的な窓口に相談できます。消費者庁の消費者ホットラインは全国共通の電話番号「188」で、地方公共団体が設置している身近な消費生活センターや消費生活相談窓口を案内する仕組みです。つながらない場合のバックアップ相談として、独立行政法人国民生活センターの電話番号(03-3446-0999/平日の10時〜16時)も同ページに案内されています。

お住まいの地域の窓口は、独立行政法人国民生活センターの全国の消費生活センターから探せます。賃貸住宅の管理に関する相談先としては、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が賃貸住宅に関する相談の受付を設けており、電話ではなくフォームからの受付と案内されています。

話し合いで解決しない場合の制度としては、裁判所の手続も用意されています。民事調停は、勝ち負けを決めるのではなく話合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図る手続で、原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てます。少額訴訟は60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて原則として1回の審理で紛争の解決を図る手続で、同じ裁判所での利用回数は1人につき年間10回までとされています。

ここで紹介したのは制度の概要であり、どの手続がどの事案に向くかは状況によって異なります。ガイドラインのQ&Aでも、敷金の返還について話合いがつかない場合の選択肢として少額訴訟制度が紹介されています。なお、家賃の滞納から明け渡しを求められるケースは、自主的な退去とはまったく別の流れになります。

賃貸の退去時の掃除についてよくある質問(FAQ)

Q退去時に掃除をしないと、敷金は戻らないのでしょうか。

A一律には決まりません。ガイドラインでは、敷金は未払賃料や損害賠償金債務等を担保するために預け入れるもので、明渡しまでにそうした債務が生じていなければ全額が返還されることになる、と説明されています。掃除の有無だけで返還額が決まるわけではなく、契約内容や部屋の状態を踏まえて精算されるものと考えてください。

Qハウスクリーニング代を請求されました。払わなければいけませんか。

A契約にクリーニング特約があるかどうか、その特約の内容がどう定められ、どう説明されていたかによって扱いが変わります。ガイドラインのQ&Aでは、特約が有効と判断された裁判例と、そうとは言えないと判断された裁判例の両方が紹介されています。個別の請求の当否はこの記事では判断できないため、まず明細を請求し、納得できなければ消費生活センターなどへ相談してください。

Qタバコのヤニや臭いはどう扱われますか。

Aガイドライン第1章の別表1では、喫煙等によりクロス等が変色したり臭いが付着している場合のタバコ等のヤニ・臭いが、賃借人の負担となるものの例として挙げられています。ただし、実際の負担範囲は損耗の程度や経過年数の考慮を踏まえて判断されるものであり、金額をあらかじめ確定できるものではありません。

Q立会いで書類にサインしてしまいました。もう変えられませんか。

AQ&Aでは、単に損傷があることの確認であれば原状回復費用の負担について了承したものではないと考えられる、という説明があります。また、原状回復に関する特約がない場合、故意・過失等によるものでない損傷についてまで負担する原因・理由はないため、その旨を主張することができる、とも記載されています。まずは何にサインしたのかを確認するところからです。

Q自分で壁紙や畳を直してから退去してもいいですか。

AQ&Aでは、契約書で賃貸人または賃貸人の指定業者が行うと規定されていればそれに従うことになり、単に賃借人が原状回復を行う旨だけの規定であれば自ら行うことも可能と考えられる、と説明されています。ただし返還予定期日までに終える必要があることや、材質・仕上がりが同等でないとやり直しを請求される可能性にも触れられています。自己判断で先に手をつけず、管理会社や貸主に確認してから進めてください。

※本記事は2026年8月時点で公開されている国土交通省・消費者庁・独立行政法人国民生活センター・裁判所等の資料にもとづく一般的な考え方の解説であり、個別の事案について費用負担の有無や請求の適否を判断するものではありません。どう扱われるかは、契約の中身や特約、その物件の状態によって変わります。

まとめ|退去の掃除は「完璧さ」より「通常の清掃と記録」

退去前の掃除は、業者並みの仕上がりを目指すものではありません。国土交通省のガイドラインが原状回復を「借りた当時の状態に戻すことではない」と整理し、経年変化や通常の使用による損耗の修繕費用は賃料に含まれるものとしている以上、力を入れるべきはゴミの撤去・掃き掃除・拭き掃除・水回り・換気扇やレンジ回りの油汚れという「通常の清掃」を一巡させることです。

そのうえで、契約書の特約を読み、入居時と退去時の状態を写真で残し、精算の明細を確認する。この3つが揃っていれば、話し合いの土台はできています。納得できない請求が出てきたときは、消費者ホットライン「188」から身近な消費生活センターにつないでもらうところから始めてください。

退去の手続きの流れ、掃除をしなかった場合の考え方、時間が足りないときの依頼先は、それぞれの記事で詳しく扱っています。ご自身の状況に近いものから読み進めてみてください。

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