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カキやサクラの葉が白くかすれている、枝を切ろうとしたら葉裏に黄緑色のイモムシが並んでいた、冬に幹を見たら鳥の卵のような固い粒が付いていた——イラガではないかと思ったとき、いちばん困るのは「触らずに確かめるにはどこを見ればいいのか」ではないでしょうか。
結論からお伝えすると、イラガの対処は、夏から秋は「葉の食べ跡」から幼虫を、冬は「繭」を探すという二段構えになります。そして繭を探す場所は、種によって枝・幹・土の中に分かれます。枝だけを見て「うちの木には無い」と判断すると、翌年また同じ木で出ます。
この記事では虫の実物写真を使わず、線画の図解と公的資料の記載だけで、見つけたものを「食べ跡」「幼虫」「繭」の3つに振り分けられるように整理しました。当メディア編集部が、名古屋市衛生研究所・島根県農業技術センター・高知県・森林総合研究所・国立環境研究所・福岡県・農林水産省・環境省が公開している資料をあたって作成しています(2026年8月時点)。なお、刺された跡や体の症状については医学的な判断ができないため、この記事ではいっさい扱いません。


【一言でいうと】イラガの駆除は、いつ木のどこを見ればいい?
イラガ類の対処は、季節で見る場所が変わります。夏から秋は葉の食べ跡をたどって幼虫の集団を探し、冬は葉が落ちた木で繭を探す、という順番です。高知県 こうち農業ネット「病害虫・生理障害台帳 なし イラガ類」の対策の欄は3項目で、うち庭で使えるのは「冬期に繭を捕殺する。」と「若齢幼虫期は集団を形成しているので、寄生葉を摘み取り捕殺する。」の2つです(残る1つは「シンクイムシ類の防除を行うことで、本種の発生抑制も可能である。」で、なしの栽培を前提にした項目です)。
この2つが柱になるのは、イラガ類が繭の中で冬を越すからです。島根県農業技術センター「病害虫データベース カキ/イラガ類」発生生態の節は「越冬はいずれも繭のなかで前蛹(蛹になる直前の幼虫)で行われる。」と書いています。繭を1つ取れば、翌年その繭から出るはずだった成虫と、その成虫が産む卵がまるごと消えるという計算になります。

| 時期 | 木で探すもの | 資料に書かれていること | 出典(値ごと) |
|---|---|---|---|
| 6〜7月・8月中旬〜9月ごろ | 葉の食べ跡(白くかすれた葉) | ふ化幼虫は集団で葉裏から葉肉組織を浅く食害するため、葉が白変して目立つ | 高知県「なし イラガ類」症状の節(葉の白変)/島根県「カキ/イラガ類」発生生態の節(幼虫の発生時期) |
| 同上 | 若齢幼虫の集団 | 寄生葉を摘み取り捕殺する(若齢幼虫期は集団を形成しているため) | 高知県「なし イラガ類」対策(2) |
| 幼虫が大きくなってから | 分散した幼虫と食害された枝 | 生長した幼虫は分散して、イラガと同様に葉をすべて食害し、枝や樹が丸坊主になることもある | 島根県「カキ/イラガ類」被害と診断の節 |
| 冬(落葉後) | 繭 | 冬期に繭を捕殺する/冬期にマユを確認した場合は掻き取る | 高知県「なし イラガ類」対策(1)(捕殺)/環境省「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」4.2.4 イラガ 防除方法(掻き取り) |
| 通年 | 繭の表面 | 幼虫および繭の表面には毒毛があり(ヒロヘリアオイラガ) | 森林総合研究所「森林生物データベース ヒロヘリアオイラガ」説明の節 |
※本記事の数値・引用は、すべて2026年8月時点で各機関の公開ページおよびPDFの記載を確認したものです。時期は資料が示している地域・作物での記載であり、全国一律の日付ではありません。
幼虫はどう見分ける?ナマコ型の体と背中に並ぶ突起

イラガの幼虫は、毛虫という言葉から想像する細長い毛の生えたイモムシとは形が違います。名古屋市衛生研究所 web昆虫図鑑「イラガ類」はイラガ(Monema flavescens)の項で「幼虫はナマコ型で、成長した幼虫は約24mm。黄緑色で背面に褐色の斑紋がある。」と書き、続けて「多数の毒棘を備えた肉状突起が背面に並ぶ。」としています。ずんぐりした体の背中に、トゲの生えた突起が列をなしているのがイラガ類の共通の形です。
体長の記載は資料でおおむね一致しています。島根県農業技術センターは、カキに付く3種をまとめて「幼虫は老熟するといずれも25mm前後になる。」としています。名古屋市の図鑑も種ごとに約24mm・約25mm・約18mm・約9mmと幅を示しており、指の先ほどの大きさと考えて差し支えありません。
種を分けるのは、体長ではなく背中の模様です。島根県はイラガの幼虫について「背面に紫褐色のひょうたん型の模様がある。」とし、ヒメクロイラガを「ヒメクロイラガは黄緑色の地に黒褐色の斑点が密にある。」、ヒロヘリアオイラガを「ヒロヘリアオイラガは全体が黄緑色で背面に灰緑色の縦線があり、その外側に青色の斑点が縦に連なっている。」と書き分けています。名古屋市はさらに細かく、ヒロヘリアオイラガについて「幼虫もアオイラガに似ているが、後胸背面に生ずる1対の突起に朱色の棘があるので区別できる。」としています。
| 種名 | 幼虫の体長 | 背中の模様・色 | 発生回数 | 出典(値ごと) |
|---|---|---|---|---|
| イラガ | 約24mm(名古屋市)/25mm前後(島根県・カキの3種共通) | 黄緑色で背面に褐色の斑紋/背面に紫褐色のひょうたん型の模様 | 年1回の発生(名古屋市)/年1回発生するものと2回発生するものがある(高知県) | 名古屋市衛生研究所「イラガ類」イラガの項(体長・斑紋・年1回)/島根県「カキ/イラガ類」(25mm前後・ひょうたん型)/高知県「なし イラガ類」発生条件の節(年1〜2回) |
| アオイラガ | 約25mm | 黄色で、背面に青色の縦条がある | 年2回発生し、蛹で冬を越す | 名古屋市衛生研究所「イラガ類」アオイラガの項(すべての値) |
| ヒロヘリアオイラガ | 25mm前後(島根県・カキの3種共通) | 全体が黄緑色で背面に灰緑色の縦線、その外側に青色の斑点が縦に連なる/後胸背面の1対の突起に朱色の棘 | 年2回発生する | 島根県「カキ/イラガ類」被害と診断の節(縦線と斑点)/名古屋市衛生研究所「イラガ類」ヒロヘリアオイラガの項(朱色の棘)/高知県「なし イラガ類」発生条件の節(年2回) |
| クロシタアオイラガ | 約18mm | 青黄色で、背面に青色の縦条がある。正中部に赤茶色の縦条を持つ個体もある | 年2回の発生 | 名古屋市衛生研究所「イラガ類」クロシタアオイラガの項(すべての値) |
| テングイラガ | 約9mm | 黄緑色で、第3腹節の側線上に赤色の瘤起がある | 年2回の発生 | 名古屋市衛生研究所「イラガ類」テングイラガの項(すべての値) |
| ヒメクロイラガ | 25mm前後(島根県・カキの3種共通) | 黄緑色の地に黒褐色の斑点が密にある | 年1〜2回(島根県。同ページの原文表記は「ヒロクロイラガ」) | 島根県「カキ/イラガ類」被害と診断の節(体長・斑点)/高知県「なし イラガ類」発生条件の節(発生経過) |
出典:名古屋市 衛生研究所「web昆虫図鑑 イラガ類」各種の項/島根県農業技術センター「病害虫データベース カキ/イラガ類」/高知県 こうち農業ネット「病害虫・生理障害台帳 なし イラガ類」(いずれも前掲・2026年8月時点)。名古屋市はカキ以外の樹木も含めた図鑑、島根県はカキ、高知県はナシを対象にした資料です。
なお、日本にいるイラガ類は数種ではありません。名古屋市衛生研究所は「日本には30数種のイラガ類が生息している。」と書いています。庭で見た1匹を種名まで確定させるより、背中にトゲの突起が並ぶナマコ型ならイラガ類として扱う、という粗さで十分に行動は決まります。
若い幼虫はどこにいる?葉が白くかすれていたら葉裏を見る

ここがこの記事でいちばんお伝えしたい部分です。イラガ類は、虫そのものより先に「葉の変化」で気づけます。島根県農業技術センターは被害と診断の節で、種によって食べ跡の見え方が違うことを次のように書き分けています。イラガについては「イラガはふ化幼虫が1頭ずつ葉に寄生して葉裏から葉肉を浅く食べるので、葉表から見ると白い斑点となって見える。」。ヒメクロイラガとヒロヘリアオイラガについては「ヒメクロイラガとヒロヘリアオイラガの若令幼虫は集団で葉裏に寄生して葉肉を食べるので、葉は表皮だけが白く残り、遠くからでも見つけやすい。」。
高知県の台帳も、ナシでの症状として「ふ化幼虫は集団で葉裏から葉肉組織を浅く食害するため、葉が白変して目立つ。」と書いています。森林総合研究所「森林生物データベース ヒロヘリアオイラガ」も「卵は卵塊で産下され、幼虫は集合性が強い。」としており、若いうちは1枚の葉に固まっているということです。つまり、白くかすれた葉を1枚めくれば、その裏に集団ごといる可能性が高いという順番になります。
この段階を逃すと手間が増えます。島根県は「生長した幼虫は分散して、イラガと同様に葉をすべて食害し、枝や樹が丸坊主になることもある。」と書き、高知県も「中、老齢幼虫になると食害量が増加し、葉脈や葉柄を残して葉を食いつくす。」としています。分散したあとは1匹ずつ探すことになり、木も傷みます。
「定期的に薬をまく」より「よく見る」ほうが先だという考え方は、国の通知も採っています。農林水産省消費・安全局長・環境省水・大気環境局長「住宅地等における農薬使用について」(25消安第175号)の別紙の1「公園、街路樹等における病害虫防除に当たっての遵守事項」(2)は「病害虫の発生や被害の有無にかかわらず定期的に農薬を散布することをやめ、日常的な観測によって病害虫被害や雑草の発生を早期に発見し、被害を受けた部分のせん定や捕殺、機械除草等の物理的防除により対応するよう最大限努めること。」と定めています。これは公園や街路樹などの管理者に向けた遵守事項で、個人宅の庭木に直接かかる規定ではありませんが、見回りを先に置くという順番の考え方は庭でもそのまま使えます。
見回るときは、木のまわりに立って葉の表側を見上げるだけでは足りません。白っぽくなった葉を見つけたら、その枝を引き寄せて葉の裏を見る。この2手を加えるだけで、集団のいる枝にたどり着けます。枝を引き寄せる手には必ず手袋をしてください。
繭はどこにある?枝の又・幹・土の中で分かれる

冬の繭取りは効果の大きい作業ですが、「枝を見たけれど無かった」で終わってしまう例が少なくありません。理由ははっきりしていて、種によって繭を作る場所が違うからです。島根県農業技術センターは、この違いを1文で整理しています。「イラガはウズラの卵を小さくした形の繭を枝に、ヒロヘリアオイラガは樹皮と同じ様な色をした偏平楕円形の繭を幹に、ヒメクロイラガは黒褐色、球形の繭を土中や雑草の株元につくる。」
高知県の台帳も同じ方向で、イラガについて「イラガは年1回発生するものと2回発生するものがある。枝の又の部分などに作られた繭のなかで越冬する。」、ヒロヘリアオイラガについて「ヒロヘリアオイラガは年2回発生する。枝幹に付着した繭のなかで越冬する。」としています。ヒメクロイラガについては「ヒメクロイラガはイラガとほぼ同じ発生経過であるが、繭は土中の浅い部分に作るためわかりにくい。」と、見つけにくさまで書いています。森林総合研究所もヒロヘリアオイラガについて「樹幹や太枝の基部にだ円形の繭を形成し越冬する。」としており、幹の付け根に近い側を見るという点で一致します。
| 種名 | 繭を作る場所 | 繭の形・色 | 出典(値ごと) |
|---|---|---|---|
| イラガ | 枝/枝の又の部分など | ウズラの卵を小さくした形/滑らかな長円形/暗白色に褐色の縞模様 | 島根県「カキ/イラガ類」(枝・ウズラの卵の形)/高知県「なし イラガ類」(枝の又の部分)/名古屋市「イラガ類」イラガの項(滑らかな長円形)/環境省マニュアル4.2.4(暗白色に褐色の縞模様) |
| ヒロヘリアオイラガ | 幹/枝幹/樹幹や太枝の基部/樹上 | 樹皮と同じ様な色をした偏平楕円形/だ円形/やわらかい楕円形/丸い繭 | 島根県「カキ/イラガ類」(幹・樹皮と同色の偏平楕円形)/高知県「なし イラガ類」(枝幹)/森林総合研究所(樹幹や太枝の基部・だ円形)/環境省マニュアル4.2.6(やわらかい楕円形)/名古屋市「イラガ類」ヒロヘリアオイラガの項(樹上・丸い繭) |
| ヒメクロイラガ | 土中や雑草の株元/土中の浅い部分 | 黒褐色、球形 | 島根県「カキ/イラガ類」(土中や雑草の株元・黒褐色の球形)/高知県「なし イラガ類」(土中の浅い部分・わかりにくい) |
出典:島根県農業技術センター「病害虫データベース カキ/イラガ類」被害と診断の節/高知県 こうち農業ネット「病害虫・生理障害台帳 なし イラガ類」発生条件の節/森林総合研究所「森林生物データベース ヒロヘリアオイラガ」説明の節/名古屋市 衛生研究所「web昆虫図鑑 イラガ類」ヒロヘリアオイラガの項/環境省 水・大気環境局土壌環境課農薬環境管理室「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」4.2.4 イラガ・4.2.6 ヒロヘリアオイラガの各項(いずれも2026年8月時点)。同じ種でも資料によって「丸い」「偏平楕円形」「やわらかい楕円形」と書き方が分かれます。
繭そのものの見た目については、名古屋市衛生研究所が「幼虫は充分に成長すると固くて丸い繭を作る。」と書いたうえで、イラガの繭を「繭は滑らかな長円形で『スズメの小便つぼ』とも呼ばれる。」と紹介しています。硬くてつるりとした小さな卵形が枝に付いていたら、それがイラガの繭です。環境省のマニュアルも4.2.4 イラガの項で「木の幹や枝に暗白色に褐色の縞模様のあるマユが見られ、この状態で越冬する。」としています。
ここで、「中身が出たあとの空の繭なら素手で触ってよい」という説明には注意が必要です。名古屋市衛生研究所はヒロヘリアオイラガについて「樹上に丸い繭を作って越冬するが、この繭にも毒針が付いている」と明記しています。森林総合研究所も同じ種について「幼虫および繭の表面には毒毛があり」と書いています。空かどうかは外からは分かりませんし、繭そのものの表面に毒毛があると書かれている以上、素手で扱う前提は取れません。取るときは手袋と、枝を切る道具を使ってください。
取る時期については、高知県が対策の(1)として「冬期に繭を捕殺する。」、環境省のマニュアルが4.2.4 イラガの防除方法として「ドクガのように、若齢幼虫が集団で発生する習性はない。冬期にマユを確認した場合は掻き取る。」(公園・街路樹等を対象にした記載)としています。落葉樹なら葉が落ちたあとがいちばん見つけやすい時期です。切り落とした枝や掻き取った繭の片づけ方、木そのものを整理するときの費用については、庭木の処分をまとめた記事もあわせてご覧ください。
どの木に付きやすい?公的資料が挙げている樹種

「うちの木は大丈夫か」を知るには、資料が名前を挙げている樹種を並べるのが早道です。ただし資料ごとに対象にしている種が違うので、どの種についての記載かを添えて整理します。
| 資料 | どの種についての記載か | 挙げられている樹種 | 出典(値ごと) |
|---|---|---|---|
| 名古屋市衛生研究所 | イラガ | カキ、ウメ、モミジなど果樹園や庭園の樹木に発生する | 名古屋市衛生研究所「イラガ類」イラガの項 |
| 名古屋市衛生研究所 | アオイラガ/クロシタアオイラガ/テングイラガ | カキ、ナシ、クリ、ヤナギなどを食害する(アオイラガ)/カキ、ウメ、サクラ、クリなどを食害する(クロシタアオイラガ)/サクラ、カキ、チャ、ヤナギ、カエデなどを食する(テングイラガ) | 名古屋市衛生研究所「イラガ類」各種の項 |
| 名古屋市衛生研究所 | ヒロヘリアオイラガ | 街路樹や庭園の、サクラ、モミジ、カシ類などで発生する | 名古屋市衛生研究所「イラガ類」ヒロヘリアオイラガの項 |
| 環境省マニュアル | イラガ | カキ、サクラ、ウメ、アンズ、ケヤキ、カエデ類、ヤナギ類、クリ、クルミ、ザクロ等広い範囲 | 環境省「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」4.2.4 イラガ 寄生植物 |
| 環境省マニュアル | ヒロヘリアオイラガ | サクラ、カエデ、カキなどの広葉樹に広く発生する | 環境省「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」4.2.6 ヒロヘリアオイラガ 寄生植物 |
| 森林総合研究所 | ヒロヘリアオイラガ | サクラ、カエデなどの植木やカキ、ウメなどの果樹で被害が甚大 | 森林総合研究所「森林生物データベース ヒロヘリアオイラガ」説明の節 |
| 福岡県 | ヒロヘリアオイラガ | バラ科、ブナ科、カエデ科、マメ科など広い植物を摂食し、たびたび街路樹などで大発生する | 福岡県「生物多様性情報総合プラットフォーム 外来種 ヒロヘリアオイラガ」生態的特徴の節 |
| 島根県 | イラガ・ヒメクロイラガ・ヒロヘリアオイラガ(カキを加害する主要種) | カキを加害する主要種はイラガ、ヒメクロイラガ、ヒロヘリアオイラガである | 島根県「カキ/イラガ類」概要の節 |
出典:前掲の各資料(2026年8月時点)。樹種は各資料が代表例として挙げているもので、ここに無い木には付かないという意味ではありません。
並べてみると、資料をまたいで名前が出てくるのはカキ・サクラ・ウメ・カエデ(モミジ)です。福岡県「生物多様性情報総合プラットフォーム 外来種 ヒロヘリアオイラガ」のように科の単位で「バラ科、ブナ科、カエデ科、マメ科など広い植物を摂食し」と書いている資料もあり、庭木としてよくあるハナミズキ・ヤマボウシ・ブルーベリー・レッドロビンといった木を名指しした公的資料は、編集部が今回確認した範囲では見当たりませんでした。名前が挙がっていない木でも「絶対に付かない」とは言えないため、庭に落葉樹があるなら見回りの対象に入れておくのが無難です。
幹に穴や木くずが出ている場合は、イラガとは別の虫の可能性もあります。木を傷める虫の切り分けは、別の記事にまとめています。
いつ出る?「年1回」は種によって違う

「イラガは年1回発生する」という説明をよく見かけます。これは間違いではありませんが、当てはまるのはイラガという1種についての話で、しかもその1種にも例外があります。
名古屋市衛生研究所 web昆虫図鑑「イラガ類」を種ごとに読むと、イラガだけが「年1回の発生。幼虫は夏-秋に多い。」で、アオイラガは「年2回発生し、蛹で冬を越す。」、クロシタアオイラガは「年2回の発生。」、テングイラガも「年2回の発生。」です。同じ図鑑の中で、年2回の種のほうが多く挙がっています。高知県の台帳はイラガ自体についても「イラガは年1回発生するものと2回発生するものがある。」と書いており、環境省のマニュアルも4.2.4 イラガの項で「通常年1回の発生だが2回発生することもある。幼虫は7~8月から10月ころにわたって見られる。」としています。
実際の幼虫の時期は、資料をまたいでおおむね重なります。島根県は「幼虫の発生時期はほぼ同時期で、6〜7月と8月中旬〜9月である。」とし、環境省のマニュアルはクロシタアオイラガを「分布や寄生植物はほとんどイラガと同じ。ただし、年2回発生し、幼虫は6~7月と8~9月に見られる。」、ヒロヘリアオイラガを「年2回発生。幼虫は6~9月ごろにわたって見られる。卵塊で産卵され、若齢幼虫期は集合して加害する。木の幹や枝にやわらかい楕円形のマユを作って蛹化する。」と書いています。
| 時期 | そのころに見られるもの | 出典(値ごと) |
|---|---|---|
| 5〜6月・8月 | ヒロヘリアオイラガの成虫が発生し、葉裏の先端部に卵塊を産みつける | 高知県「なし イラガ類」発生条件の節(成虫の時期と産卵場所) |
| 6〜7月 | 1回目の幼虫。クロシタアオイラガも同時期 | 島根県「カキ/イラガ類」発生生態の節(6〜7月)/環境省マニュアル4.2.5(クロシタアオイラガ6〜7月) |
| 7〜8月から10月ごろ | イラガの幼虫が見られる期間 | 環境省マニュアル4.2.4 イラガ 発生時期等 |
| 8月中旬〜9月 | 2回目の幼虫(島根県はカキの3種で同時期と記載) | 島根県「カキ/イラガ類」発生生態の節 |
| 6〜9月ごろ | ヒロヘリアオイラガの幼虫が見られる期間 | 環境省マニュアル4.2.6 ヒロヘリアオイラガ 発生時期等 |
| 冬 | 繭の中の前蛹(越冬) | 島根県「カキ/イラガ類」発生生態の節(越冬態) |
出典:前掲の各資料(2026年8月時点)。島根県の時期はカキ、高知県の時期はナシを対象にした記載で、地域や年によって前後します。
ここから読み取れるのは、7月にひととおり片づけたのに8月末や9月にまた出てくるのは、想定の範囲内だということです。同じ木で2回目が出たからといって、1回目の処理が失敗したとは限りません。年2回の種なら、それが本来の生活史です。見回りも、夏の1回で終わらせず秋にもう一度入れておくと取りこぼしが減ります。
「最近入ってきた外来種」は本当?ヒロヘリアオイラガの記録

庭木のイラガを調べていると、「ヒロヘリアオイラガは近年入ってきた外来種」という説明に行き当たります。外来種であること自体は公的資料と一致しますが、「近年」の部分は資料を並べると成り立ちません。
名古屋市衛生研究所はヒロヘリアオイラガについて「本種は外来の種で、1980頃から日本各地に広がり、名古屋市内でも大発生を続けている。」と書いています。島根県も「ヒロヘリアオイラガは昭和54年頃から西日本の各地でカキ、クリ、サクラなどに多発生するようになった。」としており、1980年前後という年代では一致しています。
一方で、国立環境研究所「侵入生物データベース ヒロヘリアオイラガ」は侵入情報の欄で侵入年代を「1920年頃」、侵入経路を「樹木の移動に混入」と記載しています。福岡県はさらに具体的で、「国内では1921年に鹿児島県で初めて確認された。県内における侵入年代は不明であるが、1970年代から記録がある。」と書いています。
| 資料 | 示している年代 | その年代が指している事象 | 出典(値ごと) |
|---|---|---|---|
| 国立環境研究所 侵入生物データベース | 1920年頃 | 侵入年代(侵入経路は樹木の移動に混入) | 国立環境研究所「侵入生物データベース ヒロヘリアオイラガ」侵入情報の欄 |
| 福岡県 生物多様性情報総合プラットフォーム | 1921年/1970年代 | 国内で初めて確認された年(鹿児島県)/福岡県内で記録がある時期 | 福岡県「外来種 ヒロヘリアオイラガ」侵入経緯の節 |
| 島根県農業技術センター | 昭和54年頃 | 西日本の各地でカキ、クリ、サクラなどに多発生するようになった時期 | 島根県「カキ/イラガ類」概要の節 |
| 名古屋市衛生研究所 | 1980頃 | 日本各地に広がった時期 | 名古屋市衛生研究所「イラガ類」ヒロヘリアオイラガの項 |
| 森林総合研究所 | 今回確認した資料に記載なし(年代の記載なし) | 九州や関西で大発生することがあり、最近では関東南部まで分布を広げている(2020年3月30日更新のページ) | 森林総合研究所「森林生物データベース ヒロヘリアオイラガ」説明の節・更新日 |
出典:前掲の各資料(2026年8月時点)。年代の数字が食い違っているのではなく、各資料が指している事象(初確認/記録の開始/多発生/分布の拡大)が別だという読み方になります。
整理すると、国内で最初に確認されたのは約100年前で、1970〜80年代は「広がった」「多発生するようになった」時期ということになります。庭で見かけるようになったのが最近だとしても、この虫が日本に入ってきたのは最近ではありません。福岡県は選定理由の欄で「発生状況の把握と、個体数を一定以下に抑えるための計画的な防除が必要である。」と書いており、駆逐ではなく「把握して抑える」という位置づけです。
もうひとつ、国立環境研究所の備考欄には天敵についての記載があります。同データベースは「ヨコヅナサシガメがいる場所では,本種の密度が低く抑えられるという研究結果がある.」としています。庭にいる虫をすべて排除する方向に振り切らないほうがよい、という材料のひとつです。
庭木に薬をまく前に、何を確認すればいい?

薬剤を使うなら、確認すべきなのは製品の強さではなく「農薬として登録があるか」と「自分がまく場所と木がその登録の適用に入っているか」の2点です。25消安第175号の別紙の1(4)は「農薬取締法(昭和23年法律第82号)に基づいて登録された、当該植物に適用のある農薬を、ラベルに記載されている使用方法(使用回数、使用量、使用濃度等)及び使用上の注意事項を守って使用すること。」と定めています。これは公園・街路樹等の管理者に向けた遵守事項です。
そのうえで、この通知の作りには知っておいたほうがよい点があります。別紙の1と2は、対象にしている場所が違います。別紙の1は「学校、保育所、病院、公園等の公共施設内の植物、街路樹及び住宅地に近接する森林等、人が居住し、滞在し、又は頻繁に訪れる土地又は施設の植栽における病害虫防除等に当たっては、次の事項を遵守すること。」と書き出され、別紙の2は「住宅地内及び住宅地に近接した農地(市民農園や家庭菜園を含む。)において栽培される農作物の病害虫防除に当たっては、次の事項を遵守すること。」と書き出されています。個人宅の庭木そのものは、どちらの見出しにも名指しされていません。
では庭は関係ないのかというと、そうではありません。同じ通知の本文は、農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令の第6条を引いて「住宅の用に供する土地及びこれに近接する土地において農薬を使用するときは、農薬が飛散することを防止するために必要な措置を講じるよう努めなければならない」と示しています。庭にかかるのはこの飛散防止の努力義務のほうで、別紙の1の遵守事項がそのまま庭木の義務になるわけではない、という整理になります。ネット上で「住宅地の農薬ルール」と一括りにされている説明は、この区分をまたいでいることがあります。
| 区分 | 対象になる場所 | 登録農薬についての定め | 出典(値ごと) |
|---|---|---|---|
| 25消安第175号 別紙の1 | 学校、保育所、病院、公園等の公共施設内の植物、街路樹及び住宅地に近接する森林等 | 登録された、当該植物に適用のある農薬を、ラベルに記載されている使用方法及び使用上の注意事項を守って使用する | 25消安第175号 別紙 1(柱書)/同 別紙 1(4) |
| 25消安第175号 別紙の2 | 住宅地内及び住宅地に近接した農地(市民農園や家庭菜園を含む。)で栽培される農作物 | 登録された、当該農作物に適用のある農薬を、ラベルに記載されている使用方法及び使用上の注意事項を守って使用する | 25消安第175号 別紙 2(柱書)/同 別紙 2(2) |
| 個人宅の庭木 | 別紙の1・2のいずれの柱書にも名指しの記載なし | 通知本文が引く省令第6条により、住宅の用に供する土地及びこれに近接する土地での飛散防止が努力義務 | 25消安第175号 本文(省令第6条の引用) |
出典:農林水産省消費・安全局長・環境省水・大気環境局長「住宅地等における農薬使用について」(25消安第175号・平成25年4月26日)本文および別紙の1・2(2026年8月時点)。区分の読み取りは編集部によるもので、個別の判断はお住まいの自治体の農林部局・環境部局にご確認ください。
イラガに使える薬剤があるかどうかについては、環境省のマニュアルが4.2.4 イラガの防除方法の欄で「カキには生物農薬であるBT剤の適用があり、その他の農薬にも登録がある。散布する際は発生樹木に限定する等飛散防止に努める。」と書いています。ただしこれは公園・街路樹等の管理を前提にした記載で、しかも同マニュアルは平成22年(2010年)に公表されたものです。登録の内容は改定されるため、いま使える剤かどうかは農林水産省「農薬登録情報提供システム」で、対象の樹種(適用作物名)と対象の害虫名を指定して確かめてください。同システムには「作物名で探す」「病害虫で探す」という入口が用意されています。
本記事では、希釈倍率・使用量・混ぜ方はいっさい書きません。数値は製品ごとに違い、ラベルに記載されたものが唯一の正解だからです。混ぜることについては通知にも記載があり、別紙の1(5)は「複数の病害虫に対して同時に農薬を使用することが必要となる状況はあまり想定されないことから、このような現地混用は行わないこと。」としています。また別紙の1(3)は「誘殺、塗布、樹幹注入等散布以外の方法を活用するとともに、やむを得ず散布する場合であっても、最小限の部位及び区域における農薬散布にとどめること。」と、まく範囲を絞ることを求めています(いずれも公園・街路樹等についての遵守事項)。
酢や洗剤を薄めたものを「効く農薬」として使う話も見かけますが、農薬として登録されているかどうかで扱いが変わります。この線引きについては、家庭菜園の虫を扱った記事で詳しく整理しています。
自分で取るか、業者に頼むかの目安は?

公的資料が最初に挙げているのは、薬剤ではなく剪定です。環境省のマニュアルは4.2.6 ヒロヘリアオイラガの防除方法として「幼虫が集合して加害している場合は、寄生部分の剪定など物理的な防除が有効。冬期にマユを確認した場合は掻き取る。」とし、防除の進め方の章でも「防除を行う場合、発生初期では場所が限定されていることから、被害箇所の剪定などの物理的防除で対応が可能と考えられる。」と書いています(いずれも公園・街路樹等を対象にした記載)。集団でいる枝ごと切る、というのが最初の手です。
同マニュアルは、イラガを名指しした判断基準も示しています。「人に危害があるものとして、イラガ、チャドクガ等がある。これらの防除基準としては、害虫等による健康被害の防止を優先する。」としたうえで、「公園や街路樹等は不特定多数、特に子供が触れる可能性があるため、発生を確認した場合はまずその区域への立入りを制限する等被害防止のための措置を講じる必要がある。」と書いています。これは公園や街路樹の管理者に向けた記述ですが、庭でも通り道や子どもの遊び場に近い木なら、作業の前にその一帯を通らせないという発想は同じように使えます。
- 脚立や梯子に乗らないと届かない高さに幼虫や繭がある → 自分で作業しない
- 木が大きく、集団のいる枝を切ると樹形が大きく変わる → 剪定の判断ごと依頼する
- 幹に付いた繭が樹皮と同色で見分けられない(ヒロヘリアオイラガ・島根県の記載) → 見落としが残るため依頼を検討
- 敷地の境界に近く、隣家に飛散するおそれがある → 事前に声をかけ、作業を分けて考える
- 種が分からず、イラガ以外の毛虫の可能性もある → 現場を見てもらってから判断する
頼み先は、①庭木の手入れを請け負う造園・植木の事業者 ②害虫駆除の事業者 ③料金と口コミが事前に見える審査制のマッチングサービス、の3タイプに分かれます。どのタイプでも、見積もりの前提として「対象の木の本数」「作業の高さ」「切った枝の処分を含むか」の3つを先にそろえて聞いてください。
費用の目安として、事業者比較サイトのくらしのマーケット「害虫駆除 / 毛虫・チャドクガ駆除」は、同ページの相場欄で「駆除する樹木1本」あたり「¥5,000〜¥13,000」と掲載しています(税込・税抜の記載は確認できませんでした/2026年8月時点)。同ページは予約する際のポイントとして「発生した場所が足場から3m以上の場合、追加料金が発生するかご依頼を受けられない場合がございますのでご了承ください。」とも案内しており、高さが料金と受注可否の両方に効くことが分かります。
金額の幅がなぜ生まれるのか、見積もりで何をそろえて比べればよいのかは、害虫駆除の料金をまとめた記事で詳しく扱っています。
なお、幼虫も繭も素手では触らないでください。作業中や作業後に体に異変を感じたときは、自己判断せず医療機関にご相談ください。
イラガについてよくある質問(FAQ)
※この記事の種名・体長・体色・繭の場所・発生時期・樹種・年代・農薬に関する記載は、名古屋市衛生研究所・島根県農業技術センター・高知県(こうち農業ネット)・森林総合研究所・国立環境研究所・福岡県・農林水産省・環境省が2026年8月時点で公開している資料の記載を整理したものです。島根県の記載はカキ、高知県の記載はナシ、環境省のマニュアルと25消安第175号 別紙の1は公園・街路樹等を対象にしたもので、個人宅の庭木にそのまま当てはまるとは限りません。発生の時期は地域と年によって前後します。実物写真を使わない性質上、この記事だけで種を確定することはできません。薬剤を使う場合は、必ず製品のラベルに記載された使用方法と注意事項に従ってください。体の症状に関する判断は行っていません。
まとめ|イラガは「食べ跡・幼虫・繭」で見る場所が変わる
イラガの対処でいちばん効くのは、季節ごとに木のどこを見るかを決めておくことでした。夏から秋は白くかすれた葉をめくって若齢幼虫の集団を探し(島根県農業技術センター・高知県)、冬は繭を探す(高知県・環境省マニュアル)。そして繭のある場所は、イラガなら枝や枝の又、ヒロヘリアオイラガなら幹、ヒメクロイラガなら土中や雑草の株元と、種によって分かれます(島根県・高知県)。枝しか見ていないと見つからないのは、そのためです。
調べていて分かったことが3つあります。「年1回発生」はイラガ1種の話で、年2回の種のほうが多いこと(名古屋市・高知県・環境省)。ヒロヘリアオイラガの国内初確認は1921年で、「最近入ってきた」とは言えないこと(福岡県・国立環境研究所)。そして25消安第175号の別紙の1と2には、個人宅の庭木そのものは名指しされていないこと。まずは葉の裏を1枚めくるところから始めて、手が届かない高さになったら人に頼む——この線引きだけ決めておけば、毎年迷わずに済みます。