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ハッカ油スプレーの作り方を調べると、材料の一番上にたいてい無水エタノールが並んでいます。ところが買いに行くと置いていなかったり、家にあるのが消毒用エタノールだけだったりして、「そもそもエタノールなしでは作れないのだろうか」という疑問にぶつかった方は多いのではないでしょうか。
この記事では、当メディア編集部が日本薬局方ハッカ油の性状(医薬品の添付文書とドラッグインフォメーション)、健栄製薬の製品表示とコラム、厚生労働省の通知、東京都健康安全研究センターが公開している講習会資料、栃木県の実証資料を調べ、エタノールがハッカ油スプレーの中で何をしている材料なのかと、ハッカ油に「虫よけ」の効能が表示できることになっているのかを、書かれている範囲だけ整理しました。
先に二つお断りします。この記事は配合の分量・希釈の倍率をいっさい書きません。ハッカ油は虫よけの効能が承認された製品ではなく、分量を示すと効果を保証したように読めてしまうためです。また、皮ふに付いたときの処置や体調の変化についても書きません。気になる症状があるときは医療機関にご相談ください。※2026年8月時点


【一言でいうと】ハッカ油スプレーはエタノールなしでも作れる?

ハッカ油と水を容器に入れること自体はできますが、日本薬局方ハッカ油の性状として吉田製薬の医薬品情報が記載しているのは「水にほとんど溶けない。」です。つまりエタノールを抜くと、「薄める」ではなく「振って一時的に散らす」状態にとどまります。一方で、ドラッグストアで流通する製品の製造販売元である健栄製薬のサイトは「水で薄めると」という書き方で案内しており、無水エタノールを必須の材料としては挙げていません。
この記事で確認できたことを先に並べます。値と出典は一対一で対応させ、資料に書かれていない項目はその旨を記しました。※2026年8月時点
| 確かめたこと | 資料に書かれている内容 | 出典 |
|---|---|---|
| ハッカ油と水の関係 | 「水にほとんど溶けない。」 | 吉田製薬 ハッカ油「ヨシダ」ドラッグインフォメーション(日本薬局方ハッカ油の性状) |
| ハッカ油とエタノールの関係 | エタノール(95)などと「混和する」 | 同上(性状の欄) |
| エタノールと水の関係 | 「本品は水と混和する。」 | 無水エタノール「ニッコー」添付文書 19.有効成分に関する理化学的知見 |
| メーカーが案内している作り方 | 「水で薄めると直接体にも吹きかけられる虫除けスプレーになります。」 ※販売元の案内です。この製品の区分は食品添加物で、承認された虫よけの効能はありません(本文で後述)。 |
健栄製薬「ハッカ油について」効果と特徴の節 |
| 医薬品のハッカ油の効能 | 「芳香・矯臭・矯味の目的で調剤に用いる。」 | ハッカ油「ニッコー」添付文書 4.効能又は効果 |
| 忌避の効能が示されている成分 | ディート製剤・イカリジン製剤(承認申請の対象製剤) | 厚生労働省 平成28年6月15日 薬生審査発0615第1号 別添 |
| 水で薄めたスプレーの持ち・適量 | 今回確認した資料に記載なし | ― |
以下、この表の一行ずつを資料の原文で確認していきます。分量や倍率は、どの節でも扱いません。
なぜ作り方の多くが無水エタノールを使うのか?

理由は「香りを広げるため」でも「防腐のため」でもなく、溶け方の問題です。吉田製薬が公開しているハッカ油「ヨシダ」のドラッグインフォメーションは、日本薬局方ハッカ油の性状として「エタノール(95)、エタノール(99.5)、温エタノール(95)又ジエチルエーテルと混和する。水にほとんど溶けない。」と記載しています。
いっぽうエタノール側の性状は逆です。無水エタノール「ニッコー」の添付文書は、有効成分の性状を「本品は無色澄明の液である。本品は水と混和する。」と書いています。ハッカ油とは混ざり、水とも混ざる——この二面性があるので、多くの作り方が最初にエタノールを置いているわけです。
ここで「無水」と「消毒用」の違いも押さえておきます。同じ添付文書によれば無水エタノールは「エタノール(C2H6O)99.5vol%以上」を含み、消毒に使うときの用法は「本品を精製水でうすめて、エタノールとして、76.9〜81.4vol%とし、これを消毒部位に塗布する。」です。消毒用エタノールは最初から水を含んだ濃度で規格されている、という関係になります。
なお、この添付文書に書かれている効能又は効果は「手指・皮膚の消毒、手術部位(手術野)の皮膚の消毒、医療機器の消毒」です。スプレーの基材として承認されたものではない、という点は頭の隅に置いておきたいところです。
エタノールなしで作ると、何が変わる?

まず、メーカー自身が水だけの使い方を案内している点は事実として押さえておきます。健栄製薬の「ハッカ油について」の「ハッカ油の効果と特徴」には、虫除け効果の説明として「害虫はハッカの香りが苦手なため、虫除けに効果を発揮します。網戸に直接吹きかけて害虫よけに、水で薄めると直接体にも吹きかけられる虫除けスプレーになります。」とあります。エタノールは出てきません。
そのうえで、局方の性状が示しているのは「水で薄める」と書かれていても溶けた状態にはならないということです。置いておけば油分と水は分かれるので、使うたびに振ることになり、一吹きごとの濃さも一定しません。
「では乳化剤を入れれば」という発想も出てきますが、乳化や可溶化は製品として設計されている部分です。家庭で何をどれだけ足すかという話は、効果も安全性も確かめられた資料が見当たらないため、この記事では扱いません。
参考までに、公的機関の資料でハッカ油の希釈が具体的に書かれていた例は、水ではなく油でした。栃木県の平成27年度現地技術実証展示ほ成果情報「ハッカ油を利用したサシバエ対策」は、要約に「サラダ油で希釈したハッカ油の牛体へ噴霧は、サシバエの飛来数を減らし、忌避効果は6時間持続した。」と記しています。対象は乳牛の牛体で、人の肌に使う前提の資料ではありません(分量は本記事では転記しません)。
ハッカ油に「虫よけ」の効能は承認されている?

ここが、作り方の記事ではほとんど触れられていない部分です。ドラッグストアで売られているハッカ油の瓶とスプレーの区分は、健栄製薬の製品情報ページでは「食品添加物」です。組成は「1ml中 ハッカ油 1ml含有。」で、効能・効果の欄そのものがありません。
薬局で買える日本薬局方のハッカ油は医薬品ですが、効能はまったく別の方向です。ハッカ油「ニッコー」の添付文書(2023年7月改訂)の「4.効能又は効果」は「芳香・矯臭・矯味の目的で調剤に用いる。また、ハッカ水の調剤に用いる。」で、虫よけは含まれていません。
では虫よけの効能はどの製品に付くのか。厚生労働省の「防除用医薬品及び防除用医薬部外品の製造販売承認申請に係る手続きについて」(平成28年6月15日 薬生審査発0615第1号)は、対象製剤としてディートを有効成分として含有する忌避剤とイカリジンを有効成分として含有する忌避剤を挙げ、別添でディート30%製剤の効能又は効果を「蚊、ブユ(ブヨ)、アブ、ノミ、イエダニ、マダニ、サシバエ、トコジラミ(ナンキンムシ)、ツツガムシの忌避」、イカリジン15%製剤を「蚊成虫、ブユ(ブヨ)、アブ、マダニの忌避」と示しています。
同じ別添は、使用上の注意について「忌避効果の持続時間について記載すること。」とも求めています。承認された虫よけは、対象の虫と効果の持続時間まで表示に載る仕組みだということです。手作りのスプレーには、その裏づけも表示もありません。「効かない」と断定できる資料を見つけたわけではなく、効能として認められた表示が存在しないという意味です。
承認された成分で選ぶとどうなるかは、市販品を並べた記事のほうがわかりやすいと思います。
ハッカ油の虫よけ効果は、公的な資料でどこまで確かめられている?

「裏づけがない」と書く前に、公的機関の資料を当たりました。結果として、ハッカ油に触れている資料は見つかりました。ただし書き方は慎重です。
東京都健康安全研究センターが感染症媒介蚊対策講習会の資料として公開している「蚊の防除~施設・公園~」(公益社団法人東京都ペストコントロール協会 技術委員 佐々木健氏)の「天然成分の虫よけ」のスライドは、「レモンユーカリ成分等、蚊に対する忌避効果が知られている成分がある」に続けて「他、ハーブやハッカ油等を使用した虫よけ商品もある」と記しています。
そのうえで同じスライドは、「商品としては不快害虫用である」「昆虫に対する忌避効果はあるため、蚊にも有効であることは考えられる」と並べ、「但し、前述の殺虫剤のように製品として「蚊用」に認められている商品では無い」と続けます。結びは「医薬品・医薬部外品を使用できない場合やその他補助的に使用するには良いと思われる」で、置き換えではなく補助という位置づけです。これは市販の虫よけ商品についての記述で、手作りスプレーについての記述ではありません。
実際に効果を測った公的資料としては、前述の栃木県の実証があります。栃木県のサシバエ対策の成果情報は今後の方向性の欄で「ハッカ油を用いた方法は、牛体へのサシバエ飛来数を減らすが発生数を減らすものではない。」と限界も明記し、「また、搾乳牛においては、生乳にハッカ油が混入しないように注意する必要がある。」と付け加えています。対象はサシバエ、場所は乳牛舎、噴霧先は牛体です。
編集部が調べた範囲では、人の肌にハッカ油スプレーを使うことを勧めた公的機関の資料は見当たりませんでした。もっとも踏み込んでいたのが、上の「補助的に使用するには良いと思われる」という書き方です。ミント類の忌避性を調べた研究の話は、別の記事で扱っています。
猫がいる部屋で使ってもいい?

獣医学的な判断は編集部にはできませんので、書かれているものをそのまま示します。健栄製薬のコラム「万能だからこそ知っておこう|ハッカ油を安全に使うためのルール」は、ペットの節で「残念ながら、猫はハッカ油の成分が苦手です。このため、猫を飼っている場合には猫がいる空間にはハッカ油を使用しない方がいいでしょう。」と書いています。製造元がはっきり避けるよう案内している、ということです。
自治体の資料は、精油に限らず化学製品全般としての注意になります。京都市「犬猫等のペットへのタバコや化学物質の影響に注意しましょう」(保健福祉局 保健衛生推進室 医務衛生課)は「消臭剤,殺虫剤などの化学薬品にも注意して,犬や猫の近くで使用することは控えましょう。」と案内し、スプレー類については「スプレーなどをまくと下に溜まりますので,換気を良くするようにしましょう。」としています。
ここで一つ、根拠の出どころを確かめておきます。「猫は肝臓で精油を分解できない」という説明の根拠としてよく挙がるのは、ネコ科でUGT1A6という酵素の遺伝子が働かなくなっているという報告です(Shrestha B ほか、PLoS One 6巻3号 e18046、2011年)。ただしこの論文が扱っているのはアセトアミノフェンなどの薬物の代謝で、ハッカ油の成分について確かめたものではありません。
これは「猫に使っても平気」という意味ではまったくありません。メーカーが猫のいる空間での使用を避けるよう書いている以上、その記載に従うのが確実です。猫の様子で気になることがあるときは、この記事や検索結果ではなくかかりつけの動物病院にご相談ください。※2026年8月時点
子どもがいる家や肌に使うときは何に気をつける?

製品表示に書かれていることから確認します。健栄製薬の製品情報ページの使用上の注意は「使用する場合は、換気を十分に行なって下さい。」「原液をそのまま皮ふに使用しないで下さい。」で、保管上の注意は「小児の手の届かない所に保管して下さい。」です。同社のコラムも「特に原液をそのまま肌につけるのは避けて下さい。」と繰り返しています。
承認された虫よけと比べると、差がはっきりします。前出の東京都健康安全研究センターの資料は、皮膚に塗るタイプの成分としてディートを「生後6か月から濃度10%製品が使用可 使用回数に制限」「12歳から濃度30%製品使用可」、イカリジンを「2015年に医薬部外品として承認 小児への使用制限なし 皮膚刺激なし」と整理しています。年齢と回数の目安が製品側に決まっているわけです。
この表示の仕組みは行政の指示で整えられてきたものです。厚生労働省の安全対策調査会資料「ディート(忌避剤)の安全性について」は、平成17年の検討会で「製品の表示にディート濃度及び使用方法の目安等を記載させる必要があること」が確認され、同年8月24日付け薬食安発第0824003号で使用上の注意の改訂が指示された経緯を記しています。手作りのスプレーには、この濃度も回数の目安もありません。
置き場所についても一点だけ。国民生活センターが2021年4月8日に公表した「液体芳香剤の誤飲事故等に注意!」によれば、医療機関ネットワークには2010年12月から2020年12月末までの約10年間に、乳幼児が液体芳香剤を誤飲したなどの事故情報が31件寄せられています。これは液体芳香剤(リードディフューザー)についての集計で、ハッカ油の集計ではありませんが、香りのついた液体を子どもの手が届く場所に置かない、という点は共通します。気になる症状があるときは医療機関にご相談ください。
容器と保管でつまずきやすいのはどこ?

作り方より先に事故が起きやすいのが、容器と置き場所です。健栄製薬のコラムは「ハッカ油にはポリスチレンを溶かす作用があるので、スプレーボトルを選ぶ際には特に注意が必要です。」と書き、避ける素材と使える素材を具体的に挙げたうえで、「確認できないときにはガラス製のものを選べば安全です。」としています。
溶ける相手はボトルだけではありません。同じコラムは「網戸などのサッシや冷蔵庫のトレーなどがポリスチレン製のときには使用しないで下さい。」と続けます。網戸に吹きかける使い方が広く紹介されている一方で、素材によっては吹きかけてはいけないと書かれているわけです。
火まわりも見落とされがちです。健栄製薬の保管上の注意は「火気に近づけないで下さい。(火気その他着火源(静電気を含む。)から離して保管して下さい。)」「遮光して、涼しい所に密栓して保管して下さい。」「他の容器に入れ替えないで下さい。(誤用の原因になったり、品質が変わることがあります。)」の三点を挙げています。
エタノールを使う場合はさらに注意が要ります。無水エタノール「ニッコー」の添付文書は取扱い上の注意を「火気を避けて保存すること。」とし、性状の欄でも「本品は燃えやすく、点火するとき、淡青色の炎をあげて燃える。」と記しています。コンロやストーブのそばで作業しない、というだけで避けられる話です。※2026年8月時点
製品の区分と表示から読み解く考え方は、蚊取り線香の記事でも同じやり方で整理しています。
ハッカ油スプレーについてよくある質問(FAQ)
※本記事は、ハッカ油の性状・区分・表示と、公的機関の資料に書かれているハッカ油の扱いを2026年8月時点で整理したものです。虫よけの効果を保証・否定するものではなく、配合の分量や希釈倍率、皮ふや体調に関する処置は扱っていません。製品の仕様・表示は変更されることがあります。実際にお使いになる製品の表示と使用方法に必ず従い、体調で気になることがあるときは医療機関に、猫やペットの様子が気になるときはかかりつけの動物病院にご相談ください。
まとめ
ハッカ油は日本薬局方の性状で「水にほとんど溶けない。」とされ、エタノールとは混和します。エタノールなしでも水と一緒に容器へ入れることはできますが、それは薄めているのではなく一時的に散らしている状態で、濃さは一定しません。健栄製薬「ハッカ油」の使い方コラムには水で薄める案内があり、同社のサイトでは無水エタノールが必須材料としては書かれていませんでした。
もう一つ持ち帰っていただきたいのは、ハッカ油には虫よけの効能表示がないという事実です。医薬品としての効能は「芳香・矯臭・矯味」で、忌避の効能が示されているのはディート製剤とイカリジン製剤でした。猫がいる部屋での使用はメーカー自身が避けるよう書いており、容器はポリスチレンを避ける——確かめられたのはここまでです。判断に迷うときは、この記事ではなく製品の表示と、医療機関・動物病院を頼ってください。