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台所でゴキブリを見てしまった夜、殺虫剤を撒くのは気が進まない——そんなときに目に入るのが「ミントを植えるだけでゴキブリが来なくなる」という話です。通販サイトには虫よけ用のハーブ苗が並び、ハッカ油のスプレーを自作する方法を紹介する記事も数多く見つかります。
ただ、当メディア編集部が自治体・保健所・公益社団法人日本ペストコントロール協会が公開しているゴキブリ対策の資料を1件ずつ開いて確認したところ、ミントやハーブを対策として挙げているものは見当たりませんでした。その一方で、学術誌にはハッカ油の忌避性を実験室で調べた論文が存在します。相反するように見えるこの2つを、混ぜずに分けてお伝えします。
この記事で扱うのは2つだけです。ひとつは「ミントで寄せ付けない」という話の根拠が公的な資料にあるのかどうか。もうひとつは、ミントそのものを庭やプランターで育てることに、どんなリスクがあるのかです。駆除のやり方や薬剤の使い方は扱いません。


【一言でいうと】ミントでゴキブリを寄せ付けない効果は、公的な資料では確かめられていない

先に結論を3つ置きます。①自治体や業界団体が公開しているゴキブリ対策に、ミント・ハーブ・においで遠ざける方法は挙がっていません ②研究の世界にはハッカ油の忌避性を調べた論文があり、そこには試験結果が残っています ③ミントは地下茎で横に広がるため、植える場所を決めずに地面に下ろすと後戻りしにくくなります。
①と②は矛盾していません。論文が調べたのは「精油を処理した実験条件で虫がどう動くか」であり、「庭にミントを植えたら家にゴキブリが来なくなるか」ではないからです。この記事はその線引きを丁寧にたどります。下の表が全体の地図です。
| 論点 | 公的資料・研究に書かれていたこと | この記事のどこで解説 |
|---|---|---|
| ミント・ハーブでの忌避 | 自治体・業界団体の対策一覧に記載が見当たらない | 根拠を公的資料でたどる |
| ハッカ油の忌避性 | 1982年・1983年の学術論文に試験結果がある | 研究の世界では何が調べられているのか |
| 家庭で置いた場合の効き目 | 効果を確かめた公的資料は見当たらなかった | 研究の世界では何が調べられているのか |
| 市販品と自作の違い | 防除用医薬部外品には区分と表示の決まりがある | 市販の殺虫剤・虫よけとの違い |
| 栽培のリスク | 地下茎とランナーで広がる/ハッカ属の複数種が国内に定着 | 育てるときに知っておきたい危険 |
※本記事は「ミントでゴキブリを寄せ付けられるか」の検証と、ミント栽培そのもののリスクを扱います。駆除の手順・薬剤の使い方は扱いません(2026年8月時点)。
「ミントでゴキブリが来なくなる」の根拠を公的資料でたどる


自治体のゴキブリ対策に「ハーブ」は出てこない
名古屋市は「ゴキブリ 台所のオジャマ虫を退治しましょう」というページで、対策を3つに分けて説明しています。1つめが「ゴキブリのすみにくい環境にする」で、その中身は「食品やゴミはフタのできる容器に入れます」「戸棚や引出しはいつも清潔にします」「小さな隙間をふさぎます」の3点です。2つめが「ゴキブリを捕獲する」、3つめが「薬剤を使って駆除する」となっています(名古屋市「ゴキブリ 台所のオジャマ虫を退治しましょう」)。ここにハーブ・ミント・においで遠ざけるという項目はありません。
広島市のページは、ゴキブリが住みつきやすい場所として「台所、食堂、湯沸場、倉庫など、暗くて、あたたかい所」を挙げ、「ガスレンジ、流し台、冷蔵庫の下、家具と壁の隙間、排水口、換気扇などに生息」すると説明しています(広島市「ゴキブリがよく潜んでいる場所と対策」)。大阪府も「ゴキブリは暗い・せまい・温かい場所を好み、冷蔵庫の下のすき間や排水口等に潜んでいることがあります。」と書いています(大阪府「ゴキブリ対策について」)。どちらも語られているのは場所と環境であって、香りの話ではありません。
公益社団法人日本ペストコントロール協会の予防対策にも記載がない
防除の業界団体である公益社団法人日本ペストコントロール協会のゴキブリ駆除のページも確認しました。予防対策として挙げられているのは「清潔な環境」「ひそんでいる隙間をふさぐ」「屋外からの侵入をふせぐ」の3つ、駆除対策として挙げられているのは「殺虫剤を使用する」「捕獲する」の2つです(公益社団法人日本ペストコントロール協会「ゴキブリ駆除」)。ここでもハーブや香りによる忌避は方法として登場しません。
つまり、行政と業界団体が家庭向けに公開している資料は、そろって「すみにくくする・入れない・減らす」の3方向で組み立てられています。植物を置くという発想は、そもそもこの枠組みの中に入っていないということです。
保健所は駆除作業をしない。ただし相談はできる
「では保健所に頼めばいいのか」と考える方もいるかもしれません。東京都保健医療局の多摩小平保健所は、自宅の虫やダニについて「相談者自身が実施できる対策」の助言を行うとしたうえで、「保健所では、防除や駆除作業は実施しておりません。」と明記しています。自分で対応できない場合には害虫駆除業者団体の連絡先を紹介する、という案内です(東京都保健医療局 多摩小平保健所「衛生害虫に関すること」)。
作業はしてもらえませんが、住まいの状況を伝えて助言をもらう窓口としては使えます。ミントを植えるかどうかで迷っている段階なら、地域の保健所に電話で聞いてみるのも一つの方法です。
研究の世界では何が調べられているのか|ハッカ油の忌避性を扱った論文はある

公的な対策資料に載っていないからといって、誰も調べていないわけではありません。ここからは、実験室で行われた試験の話に移ります。
1982年の論文|Japanese mint oil と spearmint oil に「顕著な嗅覚的忌避効果」
稲塚新一氏(味の素株式会社川崎工場技術部)は、「新しいゴキブリ忌避効力評価法および天然精油のチャバネゴキブリに対する忌避性」という論文を、Journal of Pesticide Science 7巻2号(1982年・133〜143ページ)に発表しています。抄録には試験管法とビーカー法という2つの評価方法を考案したことが書かれ、天然精油の結果として「天然精油では, Japanese mint oil および spearmint oil (native type と Scotch type) が顕著な嗅覚的忌避効果を示した.」と記されています(J-STAGE・稲塚新一「新しいゴキブリ忌避効力評価法および天然精油のチャバネゴキブリに対する忌避性」)。
Japanese mint oil は日本のハッカから採れる精油、spearmint oil はスペアミントの精油です。「ミントの香りをゴキブリが避ける傾向」自体は、40年以上前の査読誌に試験結果として残っている、ということになります。
1983年の論文|62種のモノテルペノイドのうち強い忌避性を示したもの
同じ著者は翌年、Journal of Pesticide Science 8巻3号(1983年・293〜299ページ)に「チャバネゴキブリに対するモノテルペノイドの忌避性について」を発表しています。抄録によれば62種の化合物を試験し、「鎖状モノテルペノイドでは (-)-linalool および nerol に, 単環状モノテルペノイドでは (-)-carvone, (+)-pulegone, (+)-isopulegol および (+)-pulegol に強い嗅覚的忌避性を認めた.」と報告しています(J-STAGE・稲塚新一「チャバネゴキブリに対するモノテルペノイドの忌避性について」)。
興味深いのは、成分によって結果が分かれている点です。同じ抄録は、双環状のものやイソプロピル基を持たない単環状のものには弱い忌避性しか認められなかったとも報告しています。「ミントの香り」とひとくくりにできる話ではなく、どの成分がどれだけ含まれるかで結果が変わりうる、と読めます。
蚊に効くものがゴキブリにも効くとは限らない
1982年の論文の抄録には、もうひとつ見落とせない記述があります。「蚊に対し強い忌避性を有すると報告されている citronella oil などの天然精油には強いゴキブリ忌避性が認められなかった.」という一文です。シトロネラは虫よけの定番として知られる精油ですが、この試験ではゴキブリに対して強い忌避性は出ていません。
「虫よけ」という言葉は便利ですが、相手が蚊なのかゴキブリなのかで結果が変わることを、この記述は示しています。ネットで見かける「この香りは虫全般に効く」という説明を、そのまま信じないほうがよさそうです。
実験室の忌避性と「庭に植える」は別の話
ここが一番大事なところです。これらの論文が扱ったのは、濃縮された精油や単一の化合物を、限られた空間で処理したときの反応です。鉢植えのミントの葉から自然に出る香りの濃さ、エサと水がある台所、隠れる場所がいくらでもある家——そうした条件で同じ結果になるかどうかは、この論文からは分かりません。
そして、家庭でミントを置いた場合の効果を確かめた公的な資料を、編集部が調べた範囲では見つけられませんでした。だからこの記事では「効きます」とも「効きません」とも書きません。確かめられていないことは、確かめられていないものとして扱う——それが今の時点で書ける、いちばん正直な答えです。試すのは自由ですが、それだけで解決すると見込んで他の手を止めるのは避けたほうが安全でしょう。
市販の殺虫剤・虫よけと、自作のスプレーや鉢植えは何が違うのか

ドラッグストアの殺虫剤と、自分で作ったハッカ油スプレーは、何がどう違うのでしょうか。効き目の大小ではなく、制度の側から整理すると分かりやすくなります。
東京都健康安全研究センターの「医薬部外品の表示について」というページでは、防除用医薬部外品を「人又は動物の保健のためにするねずみ、はえ、蚊、のみその他これらに類する生物の防除の目的のために使用される医薬部外品」と説明し、直接の容器等に「防除用医薬部外品」の文字を記載することを求めています。あわせて同センターは、人の身体に直接使用されることのないものには「注意―人体に使用しないこと」の文字を記載する、という決まりも示しています(東京都健康安全研究センター「医薬部外品の表示について」)。
市販の製品は、この区分と表示のルールの中で売られています。一方、プランターに植えたミントや台所で作ったスプレーは、その枠の外にあります。これは「効かない」という意味ではなく、効き目を確かめて表示する仕組みを通っていないという意味です。両者を同じ土俵で比べないほうが、判断を誤りません。
- 市販の製品を使うときは、容器の区分表示と使用方法をそのとおりに守る
- 複数の薬剤を混ぜて使わない。その日に使う薬剤はひとつに絞る
- 精油は原液の刺激が強いため、飲んだ・目に入ったなど体に入ったときは自己判断せず医療機関に相談する
- 犬や猫のいる部屋で精油を使ってよいかどうかは、かかりつけの動物病院に確認する
ミントを庭やプランターで育てるときに知っておきたい危険

「ゴキブリ ミント 栽培 危険」と検索されるとき、危険と呼ばれているのはゴキブリのことではありません。ミントそのものの広がり方のことです。ここからが本題の後半になります。
地下茎とランナーで広がる|地植えは株間1m以上が目安
一般社団法人全国農業改良普及支援協会と株式会社クボタが運営する「みんなの農業広場」のミント類の栽培解説は、「地下茎やランナーを伸ばし周囲に広がりすぎるため、地植えの場合は、株間を1m以上とるようにします」と伝えています(みんなの農業広場「ミント類の作り方(家庭菜園向け)」)。家庭菜園向けの解説で、わざわざ株間1m以上と指定されるハーブは多くありません。
植物としての性質も見ておきます。京都府レッドデータブック2015のハッカの形態の記述には「地下に横走する根茎があり、群生する。」とあります(京都府レッドデータブック2015「ハッカ」)。地面の下を横に走る茎から次々と株が立ち上がる——それがミントの仲間の増え方だということです。
地上部を刈っても、地下の根茎は土の中に残る
この性質から言えるのは、見えている葉や茎を刈り取っても、土の中の根茎はそのまま残るということです。しばらくすると、刈った場所からも、少し離れた場所からも新しい芽が出てきます。「増えすぎたら抜けばいい」という前提が、ミントでは成り立ちにくいのはこのためです。
花壇や家庭菜園に一緒に植えていた場合、隣の株の根元にまでランナーが入り込むこともあります。植えたあとで場所を移すのは骨が折れるので、置き場所は最初に決めておくのが結局いちばん早道です。
庭から逃げ出したミント類は「外来種」として記録されている

広がる先は自分の庭だけとは限りません。国立環境研究所の侵入生物データベースが公開している「日本の外来種全種リスト」は、シソ科ハッカ属としてコショウハッカ(Mentha × piperita)、オランダハッカ(Mentha spicata var. spicata)、マルバハッカ(Mentha suaveolens)などを「定着」の状況で挙げています(国立環境研究所 侵入生物データベース「日本の外来種全種リスト」)。コショウハッカはペパーミント、オランダハッカはスペアミントとして売られているものです。
その影響を示す記述もあります。京都府レッドデータブック2015は在来のハッカを準絶滅危惧種としており、選定理由に「かつては田の畔や湿地にまれでなかったが、近年では見かけることがほとんどない。似たものはあっても、ほとんどが外来種か、外来種との交雑を疑わせるものである。」、生存に対する脅威として「外来種との競合、同交雑、湿地の改変。」と記されています。
だからこそ、刈り取った茎や掘り上げた根茎を、川べりや空き地など野外に捨てないでください。園芸で出た植物の残さは、お住まいの自治体の区分に従って出すのが基本です。庭の手入れでまとまった量が出たときの出し方は、別の記事にまとめています。
隣の敷地に届いたときの扱いは、自分で判断しない
「隣の家から伸びてきた」「うちのミントが越えてしまった」というご近所の話も起こりえます。民法第233条第4項は「隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。」と定めています(e-Gov法令検索・民法)。
ただし、この条文が対象としているのは「竹木」、つまり竹と樹木です。多年草であるミントにこの規定がそのまま当てはまるかどうかを、当メディアで判断することはできません。境界をめぐる話になったら、まずは相手方と話をし、それでも収まらないときはお住まいの自治体の相談窓口や法律の専門家に確認してください。
育てるなら、置き場所から決める
ここまでを踏まえて、ミントを楽しむための現実的な進め方を4段階でまとめます。
1まずは鉢やプランターで育てる
根が伸びる範囲を器で区切ってしまうのがいちばん確実です。地面に直接置いた鉢は、底穴から根が土に入り込むことがあるため、レンガや棚の上に上げておくと安心です。
2地植えにするなら株間と仕切りを先に決める
みんなの農業広場の解説にある株間1m以上を目安にし、区画をブロックや資材で仕切ってから植えます。花壇の中央ではなく、境界から離れた独立した区画を選んでおくと、あとの手入れが楽になります。
3こまめに刈って、量を増やしすぎない
同じ解説は、保存用として「開花前の茎を長さ7cm位で刈り取り、乾燥させて保存します」と案内しています。収穫を兼ねてこまめに刈っておくと、株が大きくなりすぎる前に手を打てます。
4刈った茎と根茎は野外に捨てず自治体の区分で出す
根茎は土に触れていれば再び根づくことがあります。庭の隅にまとめて置いたままにせず、剪定枝や草の出し方に従って処分してください。区分は自治体によって異なります。
では、公的な資料はゴキブリ対策として何を挙げているのか

最後に、行き先だけ示しておきます。前述のとおり、名古屋市は「ゴキブリのすみにくい環境にする」「ゴキブリを捕獲する」「薬剤を使って駆除する」の3つ、日本ペストコントロール協会は予防として「清潔な環境」「ひそんでいる隙間をふさぐ」「屋外からの侵入をふせぐ」を挙げています。
共通しているのは、香りで遠ざけるのではなく、居場所とエサと入り口を減らすという考え方です。具体的な手順はこの記事では扱いません。実際にどう進めるか、そもそも家にいるのかを確かめる方法、自分で手に負えないときの相談先と費用の考え方は、それぞれ別の記事にまとめています。
ゴキブリとミント・ハッカ油についてよくある質問(FAQ)
※本記事に記載した公的機関の説明・学術論文の抄録・法令の条文は、2026年8月時点で各機関が公開している内容にもとづくものです。掲載された資料の内容は更新されることがあり、また個別の事情に対する判断は当メディアでは行えません。植物の扱いや境界にかかわる問題は自治体の相談窓口へ、体調にかかわることは医療機関へ、ペットのことはかかりつけの動物病院へご相談ください。
まとめ
「ミントを植えればゴキブリが来ない」という話について、自治体・保健所・業界団体が公開している資料をたどった結果、ハーブやミントを対策として挙げているものは見当たりませんでした。一方で学術誌には、ハッカ油やスペアミント油の忌避性を実験室で調べた論文が残っています。実験室での結果と、家に鉢を置くことは別の話であり、後者を確かめた公的資料は見つかりませんでした。
もうひとつの答えが、栽培そのもののリスクです。ミントは地下茎とランナーで横に広がり、地植えなら株間1m以上が目安とされるほどの増え方をします。地上部を刈っても根茎は残り、庭を越えて広がった先では外来種として記録されている種もあります。植える前に、鉢にするか区画を仕切るかを決めておいてください。
香りに期待して何もしないでいるあいだも、居場所とエサと入り口はそのままです。ミントは香りを楽しむ植物として置き場所を決めて育て、ゴキブリへの手当ては、公的資料が挙げている「すみにくくする・入れない・減らす」の順に進めていくのが確実です。具体的な進め方は関連記事をご覧ください。