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梅雨から夏にかけての夜、浴室のタイルや脱衣所の床でムカデを見つけて、その場から動けなくなってしまう——毎年この時期に必ず届く相談のひとつです。手元にスリッパも殺虫剤もない状態で、相手だけが壁を這って進んでいく状況は、経験した人にしか分からない緊張感があります。
そこで手が止まる理由のひとつが、「ムカデは殺してはいけない」という言い伝えです。殺すと仲間が集まってくる、縁起物だから触ってはいけない、実は益虫らしい——聞いたことのある話がいくつも浮かんできて、目の前の1匹をどうすればよいのか決められなくなります。
この記事では、堺市・大阪府・大阪市・島根県浜田保健所が公開している衛生害虫の情報と、倉吉博物館の観察ガイド、公益社団法人神奈川県ペストコントロール協会の解説をもとに、言われている理由をひとつずつ切り分けたうえで、見つけたときの動き方と家に入れないための対策を整理しました。読んでいて気持ちが沈まないよう、虫の写真は使わず線画の図解だけで進みます。


【一言でいうと】「殺すと仲間が来る」を裏づける公的な記載は見当たらない

ムカデを退治すると仲間が集まってくる、という話は広く知られていますが、自治体や博物館が公開している衛生害虫の資料を探しても、これを裏づける記載は確認できませんでした。むしろ堺市は、ムカデの性格について「性格的には臆病で防御のため以外に咬みつくことは無く振動を感じたりするとどんどん物陰へ逃げていきます」と説明しています。
とはいえ「だから怖くない」という話でもありません。大阪府は見出しで「するどい毒牙でがぶり」と表現しており、素手で扱う相手ではないことも明確です。言われている内容を、根拠のあるもの・ないもの・言い伝えに分けて見ていきましょう。
なお、ムカデといっても危険度は一律ではありません。倉吉博物館の打吹山ウォッチングガイドは、脚が21対で頭部が赤みを帯びたトビズムカデやアカムカデは「毒が強く攻撃的で、噛まれると危険」とする一方、脚が50対以上ある小型のジムカデ類は「毒牙は細くて弱々しいもので危険性はありません」と説明しています。
| よく言われていること | 公的な情報で確認できること | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 殺すと仲間が集まってくる | 裏づけとなる記載は自治体・博物館の資料に見当たらない | 俗説として扱う |
| 益虫だから殺してはいけない | 堺市が「ゴキブリなどを捕食する有益な側面」と記載 | 一面は事実 |
| 縁起のよい生き物だから | 衛生害虫の一次情報には記載がない | 言い伝えとして扱う |
| 室内で潰すのはよくない | 大阪府は「するどい毒牙」と表現している | 素手と不用意な接近を避ける |
| 熱湯が効く | 堺市は「屋外では熱湯をかけることも有効」と記載 | 屋外に限る・火傷と床材に注意 |
| 殺虫剤で退治したい | 大阪府は「使用前には、薬剤の説明書をよく読む」と案内 | 製品表示の用法・用量に従う |
| 咬まれてしまった | 堺市・東京都は医療機関の受診を案内 | 自己判断せず受診を優先 |
※上の表は、堺市/大阪府/大阪市/島根県浜田保健所/倉吉博物館/公益社団法人神奈川県ペストコントロール協会が公開しているページの記載を、編集部が2026年7月に読み比べて並べ直したものです。判断の目安であり、個別の状況を保証するものではありません。
ムカデを「殺してはいけない」と言われる4つの理由と、その真偽
同じ言葉でも、中身は4種類に分かれます。根拠の性質がまったく違うので、まとめて扱うと判断が止まってしまいます。下の図解で、どれがどの位置づけなのかを先に押さえてください。

理由1「仲間が来る」は、裏づけとなる記載を確認できなかった
今回参照した堺市、大阪府、大阪市、島根県浜田保健所、倉吉博物館、公益社団法人神奈川県ペストコントロール協会のいずれの資料にも、退治した個体が仲間を呼び寄せるという趣旨の記載はありませんでした。公的な情報として言えるのは「そう書かれた資料は見つからなかった」というところまでです。
では、なぜ続けて見かけるのか。島根県浜田保健所は衛生害虫の駆除例で「5〜8月が産卵期であり、そのころに活動が活発になります」と説明しています。同じ時期に同じ環境で活動が活発になれば、1匹を処理した翌日にまた見かけることは十分に起こります。
理由2「益虫だから」は、一面としては行政も認めている
堺市の健康福祉局保健所生活衛生課くらしの虫相談係は、ムカデの解説ページで「ゴキブリなどを捕食する有益な側面も持っています」と記しています。同課は別のページでも、害虫という区分は恐い・不快という思いから人間がつくったもので、虫は自然界の中で私たちの暮らしを支える益虫としての役割も担っていると案内しています。
公益社団法人神奈川県ペストコントロール協会も、トビズムカデについてムカデのページで「小昆虫類や小動物を捕食するため、餌を求めて人家に侵入することもある」と説明しています。つまり家の中に現れた時点で、その家にはエサになる小さな虫がいる可能性があるということです。
理由3「縁起物だから」は言い伝えで、対処の判断材料にはしない
ムカデを縁起のよい生き物とする言い伝えは各地にあり、武具や紋のデザインに使われてきた歴史も知られています。ただし、こうした話は衛生害虫を扱う公的な資料には出てきません。
吉凶をどう受け止めるかは個人の考え方の領域です。目の前の1匹に対して何をするかは、体の大きさ・見つけた場所・家族やペットとの距離といった、その場で確かめられる条件で決めてください。
理由4「室内で潰さないほうがよい」は、実務的な注意として理にかなう
大阪府健康医療部生活衛生室環境衛生課が公開する小冊子「身のまわり ちょっと気になる いやな虫」の27ページは、ムカデについて「するどい毒牙でがぶり」という見出しを掲げ、「活発に動きまわり、夏の夜、部屋に入ってきて、人を咬むことがあります」と説明しています。
スリッパや丸めた新聞紙で叩こうとすれば、それだけ手と相手の距離が近づきます。仕留めきれずに反撃される、体液で床や壁が汚れる、といった結果になりやすいという意味で、「潰さない」は迷信ではなく安全と後始末の話だと考えると分かりやすくなります。
家の中でムカデを見つけたときの手順|素手で触らず距離をとる

夜中に見つけると、どうしても反射的に動いてしまいます。順番を先に決めておくと、慌てずに済みます。
1子どもとペットを別の部屋へ移す
最初にやることは退治ではなく、距離をとることです。東京都こどもセーフティプロジェクトは、ムカデについて目視できる大きさの場合が多いので見かけたら子どもを近づけさせないよう呼びかけています。犬や猫が鼻先を近づけようとする場面も想定して、先に別室へ移してください。
2逃げ道を減らし、履物と手袋を用意する
堺市は、振動を感じるとどんどん物陰へ逃げていくと説明しています。ドアを閉めて部屋を区切り、家具の下や荷物の隙間へ入られる前に位置を把握しておくと、そのあとが楽になります。素足のままでは動きが制限されるので、履物と厚手の手袋を先に身につけましょう。
3薬剤を使うなら、製品表示の用法・用量に必ず従う
市販の殺虫剤は、対象の害虫と使用場所が製品ごとに定められています。大阪府は薬剤の使用上の注意点として「使用前には、薬剤の説明書をよく読む」ことを挙げ、食品・食器・乳幼児の衣類・ペットなどへの薬剤汚染に注意するよう案内しています。表示に書かれていない場所や対象へ向けて使わないこと、薬剤どうしを混ぜないこと、換気と火の元についての注意書きを読み飛ばさないこと。この3つを守れそうにない状況なら、その場では薬剤に頼らないという判断もあります。
4熱湯は屋外に限る(室内では使わない)
堺市は防除方法のひとつとして「屋外では熱湯をかけることも有効です」と記しています。裏を返せば、室内向けの方法としては案内されていません。はねた湯による火傷のほか、フローリングの変色や反り、床材の継ぎ目やタイル目地の劣化につながるおそれがあるため、屋内での使用は避けてください。
5動かなくなった個体は素手で触らず包んで処分する
処理後も素手では触らないでください。厚紙やトングですくい、紙で包んでポリ袋に入れ、口を縛ってから捨てるのが安全です。捨て方の区分は自治体によって異なるため、お住まいの市区町村のごみ分別のルールに合わせてください。
ムカデが家に入ってくる原因|エサ・湿気・すき間の3つ

ムカデは家の中で生まれ育つのではなく、外から入ってきます。原因は大きく3つに整理でき、どれも家のまわりで手を打てるものです。
原因1 エサになる小さな虫が家の中にいる
島根県浜田保健所は「ゴキブリや明かりに誘われて集まった昆虫を捕食するために屋内などにも侵入してくることがあります」と説明しています。捕食者であるムカデにとって、小さな虫が集まる場所は食事どころだということです。
夜間の照明が窓の外へ強く漏れていないか、生ごみを翌朝まで室内に置いていないか。この2つを見直すだけでも、家に集まる虫の量は変わってきます。
原因2 湿気と隠れ場所がそろっている
堺市は生息しやすい場所として「湿気のある狭い暗所を好みます」とし、生い茂った草むら・落葉の下・石垣の隙間・庭石やブロックの下・プランターの下を挙げています。公益社団法人神奈川県ペストコントロール協会も、昼間は草むらや落ち葉や石や植木鉢の下などに潜んでいると記しています。
家のまわりにこうした場所が連なっていると、建物のすぐそばまで生活圏が広がります。発生の時期については、堺市は冬を除くすべてのシーズンで発生が見られるとしています。
原因3 建物にすき間があり、そこから室内へ入る
屋外にいた個体が室内へ現れるということは、どこかに通れる場所があるということです。堺市は防除の考え方として、生息場所が屋外の広範囲に及ぶため発生源の抜本的な駆除は難しく、生息しやすい環境を作らないことや家屋内への侵入を防ぐといった防除的対策が必要だとしています。
浴室や洗面所で見かけることが多いのは、水回りが湿気と暗さの条件を満たしているためだと考えられます。なお、細長い体で床を這う虫にはゲジやヤスデもいて、種類によって性質はかなり違います。見分け方はこちらの記事でまとめています。
ムカデを寄せ付けない予防対策|家のまわりから手をつける

室内で1匹ずつ対処し続けるより、外の環境を変えるほうが結果的に手間が減ります。公的な資料で共通して挙げられているのは、隠れ場所をなくすことと、家屋の外周で侵入を止めることの2つです。
落ち葉・石・廃材を片づけて隠れ場所をなくす
大阪府の小冊子は防除の項で「家の中に入ってこないように家の周囲の落ち葉や石を取り除き、かくれ場所をなくします」と案内しています。島根県浜田保健所も、家の回りの落ち葉などの清掃、整理、除草をして、ムカデの住み難い環境にすることが重要だとしています。
プランターや鉢を直置きしている場合は、台に載せて底面に風が通るようにするだけでも条件が変わります。積み上げた木材やブロックも、地面に接したまま置かないほうが安全です。
薬剤を使うなら、家屋の外周に帯状という考え方
堺市は、屋内への侵入を防ぐため家屋周りを取り囲むように粉状または粒状の薬剤を幅5から10センチメートルの帯状に散布する方法を挙げています。公益社団法人神奈川県ペストコントロール協会も、侵入防止用に施設外周へ帯状に粉剤を散布しておくと効果的だとしています。
ここで使えるのは、その用途と場所が製品表示に書かれている薬剤だけです。屋内用を屋外にまく、家庭菜園のそばで用途外の製品を使うといった判断はせず、購入前に対象害虫と使用場所の欄を確認してください。効き方は環境によって差があり、散布すれば侵入がなくなると保証されるものではありません。
室内側は、水回りの乾燥と持ち込みの防止から
浴室や洗面所は使用後に換気して水分を残さない、洗濯機の下や洗面台の下に物を詰め込みすぎない、といった運用で暗く湿った空間を減らせます。東京都こどもセーフティプロジェクトは、室内に侵入する恐れがあるため帰宅時に衣服や持ち物に付着していないか注意が必要だとも案内しています。
庭仕事のあとや、屋外に干していた洗濯物を取り込むときは、たたむ前に一度ひろげて確認する習慣をつけておくと安心です。同じ湿気を好む多足類や、忌避剤・虫よけの選び方については、それぞれ別の記事で扱っています。
- 素手でつかむ、素足のまま踏む、指で払いのける
- 室内で熱湯をかける(火傷と床材の傷みにつながります)
- 製品表示に書かれていない場所・対象へ薬剤を使う、複数の薬剤を混ぜる
- 子どもやペットの手が届く場所に薬剤や毒餌を置いたままにする
- 家具の下へ逃げ込んだあと、確認せずにそのまま就寝する
咬まれたときは自己判断せず医療機関へ

寝具に潜んでいた個体にうっかり触れて咬まれる、というのが典型的な場面です。ここは自分で判断する領域ではないので、公的機関がどう案内しているかだけを確認しておきましょう。
自治体はいずれも受診を案内している
堺市は、全身の脱力感や発熱・めまい・どうき・吐き気などの症状が出たときは必ず医師の診断を受けるよう案内しています。島根県浜田保健所も、痛みがひどい場合は医師に相談したほうがよいとしています。
東京都こどもセーフティプロジェクトの虫刺され予防の解説では、ハチやムカデなど毒性のある虫に刺されると吐き気や意識障害などの重い症状が出る場合があるとし、直ちに医療機関にかかるよう呼びかけています。症状の程度や体質は人によって違い、当メディアが判断できることではありません。
痛みの続き方についての行政の記載
島根県浜田保健所は、ムカデの持つ毒はきつく、かまれるとしびれを伴う激痛があり、局部は赤く腫れ、痛みがなくなるのに1週間以上もかかり、黒っぽいシミが1ヶ月以上残ることもあると説明しています。大阪府の小冊子も、激しい痛みがありなおるまで1週間以上かかると記しています。
これは経過の目安として公開されている情報であり、個々の症状を診断するものではありません。手当ての内容や薬の選び方は、必ず医療機関の指示に従ってください。
子どもがいる家庭で先に決めておきたいこと
夜中に慌てないよう、かかりつけ医と夜間・休日の受診先を家族で共有しておくと動きが早くなります。就寝前に寝具を軽くはらう、床に衣類を置いたままにしないといった小さな習慣も、接触の機会を減らします。
咬まれた場所や状況を覚えておくと、受診の際に伝えやすくなります。写真を撮る余裕があれば残しておくとよいですが、そのために近づく必要はありません。
自分で手に負えないときの相談先と、依頼前に知っておきたい注意

毎晩のように見かける、床下や庭から次々に出てくる、といった状況では、個人の対処だけでは追いつきません。相談先は大きく3つに分かれます。
自治体の窓口は「防除方法の相談」に応じている
多くの自治体は、住宅の駆除そのものは行っていません。大阪市は衛生害虫等に関する相談についてで、各区保健福祉センター生活環境業務担当が防除方法などについての相談を受け付けているとしたうえで、「駆除は土地の所有者又は管理者が自らの責任で行ってください。大阪市では、薬剤の配布や駆除は行っておりません。」と明記しています。
窓口の名称も受けられる案内も市区町村ごとに差があります。まずは自治体の公式サイトで担当課を調べ、見かけた場所・時間帯・頻度・建物の状況を整理してから電話すると、話が早く進みます。
ペストコントロール協会と専門業者という選択肢
各都道府県には防除業者で構成された協会があり、公益社団法人神奈川県ペストコントロール協会のように相談を受け付けている団体もあります。専門業者へ直接依頼する場合は、作業内容と対象範囲、使用する薬剤、作業後の保証の有無を書面で確認しておくと後から食い違いにくくなります。
建物が賃貸であれば、契約先の管理会社や大家に先に連絡するのが順序です。共用部分や建物の構造にかかわる対策は、居住者の一存では進められないことがあります。
広告の格安料金と実際の請求が食い違うトラブルに注意
2025年3月4日、独立行政法人国民生活センターが広告の格安料金に要注意という害虫駆除トラブルの注意喚起を公表しています。同センターは、駆除の作業内容や料金は住宅の大きさや構造、害虫の発生状況によって異なると説明したうえで、ウェブ広告に表示された金額どおりに依頼できるとは限らないと指摘しています。
行動の指針として示されているのは、突然の出現でも慌てず、いま緊急に駆除する必要があるのかをいったん落ち着いて考えること。そして、薬剤を撒かないと増えてしまうといった説明で即決を求め、他社と見比べる時間を与えない相手とは契約しないことです。困ったときの相談先には、消費者ホットライン「188(いやや!)」番が挙げられています。
ムカデの駆除と対策のよくある質問(FAQ)
※本記事は、2026年7月に編集部が各機関の公開ページを確認し、その記載にもとづいて構成しました。参照したのは堺市(健康福祉局保健所生活衛生課くらしの虫相談係)、大阪府(健康医療部生活衛生室環境衛生課)、大阪市、島根県浜田保健所、倉吉博物館、公益社団法人神奈川県ペストコントロール協会、独立行政法人国民生活センター、東京都こどもセーフティプロジェクトのページです。薬剤や忌避剤については、お手元の製品に書かれた用法・用量と使用場所の指定がすべてに優先します。咬まれたあとの手当てや薬の選び方は編集部が答えられる領域ではありませんので、医療機関にご相談ください。
まとめ
「ムカデを殺してはいけない」という言葉には、4つの違う話が混ざっています。仲間が来るという説は裏づけとなる公的な記載を確認できず、益虫という側面は堺市が捕食の役割として認めており、縁起の話は言い伝え、そして室内で潰さないほうがよいというのは安全と後始末の実務です。分けて見れば、迷って動けなくなる理由はなくなります。
目の前の1匹に対しては、子どもとペットを離す、履物と手袋を用意する、薬剤は製品表示どおりに使う、熱湯は屋外に限る、素手で触らずに包んで捨てる——この順番で十分です。咬まれたときは自己判断せず、医療機関を受診してください。
そして根本的な解決は家の外にあります。落ち葉・石・鉢の直置きを片づけて隠れ場所を減らし、家屋の外周は表示に適合した薬剤で帯状に手当てし、水回りの湿気を残さない。それでも収まらないときは、自治体の窓口やペストコントロール協会、専門業者へ。依頼を急かされたときこそ、いったん立ち止まって複数社を比べるところから始めてください。