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生活保護を受けながら暮らしているなかで、大家さんから立ち退きを求められたり、家賃が基準より高いと指摘されたり、体調や家族の事情が変わったりして、引っ越しを考えなければならなくなることがあります。貯金がほとんどない状態で敷金や運送費をどう用意すればいいのか、不安になるのは当然のことです。
最初にお伝えしたいのは、生活保護制度には、国の通知で定められた転居理由に当てはまり、福祉事務所が必要と認めた場合に、敷金などの初期費用や引っ越しの運送費が保護費から支給される仕組みが用意されているということです。そして、その入口はどのケースでも共通で、「契約の前に担当のケースワーカーへ相談すること」です。
この記事では、当メディア編集部が厚生労働省の通知や自治体の公開資料を調査し、引っ越し費用が認められる場合がある転居理由の例、支給される費用の内訳、申請の流れ、やってはいけないことを整理しました。なお、この記事は個々のケースについて支給の可否をお伝えするものではありません。実際の判断は世帯の状況に応じて福祉事務所が行うため、必ず担当のケースワーカーに相談してください。


【一言でいうと】生活保護で引っ越し費用は出る?

一言でいうと、生活保護受給中の引っ越し費用は、国の通知が定める転居理由に当てはまり、事前の相談・申請を経て福祉事務所が必要と認めた場合に、保護費から支給される場合があります。「誰でも」「どんな引っ越しでも」出るわけではなく、逆に「生活保護だから絶対に出ない」わけでもありません。
支給される可能性がある費用は、大きく分けて「住まいを借りるための初期費用(敷金など)」と「荷物を運ぶ運送費」の2系統です。たとえば豊島区の生活保護のしおりでは、毎月の保護費とは別に臨時に支給される「一時扶助」の例として、住まいを借りるために必要な敷金や運送代が挙げられており、事前の申請が原則で、見積書や領収書などの書類が必要と案内されています(出典:豊島区「生活保護のしおり」)。
| 費用の項目 | 出どころ(扶助の区分) | 押さえておくポイント |
|---|---|---|
| 敷金・礼金などの初期費用 | 住宅扶助の一時扶助 | 国の通知が定める転居理由に当てはまる場合。上限あり |
| 引っ越しの運送費 | 生活扶助の一時扶助(移送費・運送代) | 事前の申請が原則。見積書などの提出が必要 |
| 転居先の毎月の家賃 | 住宅扶助(毎月の支給) | 地域・世帯人数ごとに上限(基準額)がある |
| 家具・家電など | 家具什器費などの一時扶助が設けられている場合 | 要件・限度額あり。担当員への相談が前提 |
どの費用も共通するのは、自己判断で契約や支払いを済ませる前に、担当のケースワーカーへ相談することが大前提という点です。この記事では、この前提を軸に条件・金額・流れを順番に整理していきます。
引っ越し費用が支給される条件|認められる転居理由の例

転居の際の敷金等が認められる場合について、厚生労働省の通知(「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」問30)は、該当する場合を具体的に列挙しています(出典:厚生労働省 法令等データベース「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」)。主なものを系統別に整理すると、次のようなイメージです。
| 系統 | 通知に挙げられている場合の例 |
|---|---|
| 立ち退きを迫られた | 土地収用法・都市計画法等により立退きを強制される場合/家主が相当の理由をもって立退き要求・更新拒絶・解約申入れを行い、やむを得ず転居する場合 |
| 住まいが住める状態でない | 火災等の災害で住居が消滅・居住にたえない状態になった場合/老朽・破損で居住にたえない場合/著しく狭あい・劣悪で明らかに居住にたえない場合 |
| 健康・介護上の必要 | 病気療養上著しく環境条件が悪いと認められる場合/高齢者・身体障害者がいて設備構造が居住に適さない場合/扶養義務者の日常的介護を受けるため近隣に転居する場合 |
| 生活の変化 | 離婚(事実婚の解消を含む)で新たに住居が必要な場合/退職等で社宅等から転居する場合/退院・施設退所時に帰る住居がない場合/就労場所から遠距離で、転居が自立助長に特に効果的と認められる場合 |
| 福祉事務所の指導 | 実施機関(福祉事務所)の指導に基づき、今より低額な家賃の住居へ転居する場合 |
| 安全の確保 | 犯罪被害や同一世帯の者からの暴力から、生命・身体の安全を確保するために転居が必要な場合 |
通知の原文には18の場合が挙げられており、上の表はその趣旨を系統別にまとめたものです。ここで大切なのは、自分がどれに当てはまるかを自己判断で決めつけないことです。同じ「立ち退き」でも事情はさまざまで、該当するかどうかの判断は世帯の状況をふまえて福祉事務所が行います。「当てはまらないかもしれない」と思う事情でも、まずはそのままケースワーカーに話してみてください。
なお、家賃滞納などをきっかけに退去を求められている場合は、引っ越し費用の前に退去そのものへの対応が必要になります。強制退去がどのような手続きで進むのかは、次の記事で詳しく整理しています。
支給される費用の内訳と上限|敷金・運送費・家賃

敷金などの初期費用(住宅扶助の一時扶助)
国の通知(「生活保護法による保護の実施要領について」第7の4)では、転居に際し敷金等を必要とする場合、地域ごとに定められた住宅扶助の特別基準額に3を乗じて得た額の範囲内で、必要な額を認定できるとされています(出典:厚生労働省 法令等データベース「生活保護法による保護の実施要領について」)。基準額そのものが地域や世帯人数で異なるため、「いくらまで出るか」は住んでいる地域によって変わります。
また、同じ取扱いの通知(問35)では、権利金・礼金・不動産手数料・火災保険料・保証料についても、必要やむを得ない場合は転居に必要なものとして認定して差しつかえないとされています。敷金ゼロでも礼金や保証料がかかる物件は多いため、初期費用の内訳が分かる書類をそろえて相談するとスムーズです。
引っ越しの運送費(生活扶助の一時扶助)
荷物を運ぶ費用は、毎月の生活費とは別に臨時で支給される一時扶助の枠組みで扱われます。前述の豊島区のしおりでは一時扶助の例として「敷金や運送代」が挙げられているほか、船橋市のしおりでも、特別な事情がある場合に支給される一時的な扶助として被服費・家具什器費・移送費などが案内されています(出典:船橋市「生活保護のしおり」)。いずれも事前の申請が原則で、引越し業者の見積書などの提出を求められます。福祉事務所によっては複数の業者の見積もりを取るよう案内されることもあるため、必要な見積もりの数や書式は担当のケースワーカーの指示に従ってください。
転居先の家賃には上限(住宅扶助基準額)がある
厚生労働省の制度案内では、住宅扶助は「アパート等の家賃等」を対象に「定められた範囲内で実費を支給」とされています(出典:厚生労働省「生活保護制度」)。この「定められた範囲」=上限額は地域と世帯人数で異なり、たとえば大阪市の公表では、住宅扶助の限度額は1人世帯40,000円・2人世帯48,000円・3〜5人世帯52,000円などとされています(2026年7月の執筆時点。出典:大阪市「生活保護費について」)。
敷金等が認められるのは、この基準の範囲内の家賃の住居へ転居する場合が前提とされているため、物件探しは自分の地域・世帯人数の上限額をケースワーカーに確認してから始めるのが失敗しない順番です。なお、生活保護以外にも、自治体が独自に設けている引っ越し関連の補助制度があります。あわせて次の記事も参考にしてください。
申請から支給までの流れ|必ず「契約前」にケースワーカーへ
ここまでの内容を、実際の動き方に落とすと次の5ステップになります。どの自治体でも共通する軸は「相談が先、契約は後」です。

1担当のケースワーカーに転居の事情を相談する
立ち退きの通知や体調のことなど、引っ越しを考えている事情をそのまま伝えます。大阪市のしおりでも、一時的な扶助には支給できる項目や要件、限度額があるため「必ず事前にケースワーカーまでご相談ください」と案内されています(出典:大阪市「生活保護のしおり」)。
2福祉事務所が転居の必要性・要件を確認する
通知の類型に当てはまるか、世帯の状況をふまえて福祉事務所が判断します。この確認が終わる前に物件を契約しないことが大切です。
3家賃上限の範囲内で物件を探す
自分の地域・世帯人数の住宅扶助基準額を確認し、その範囲内の物件を探します。不動産会社には初期費用の内訳が分かる書類(見積書など)を出してもらいます。
4引越し業者の見積書など必要書類を提出する
初期費用の見積もりと、引越し運送費の見積書を福祉事務所へ提出します。見積もりの取り方(社数・書式)は福祉事務所の案内に従ってください。
5支給決定後に契約・引っ越しをして、領収書等を報告する
支給が決まってから契約・引っ越しを行い、支払い後は領収書などを保管して報告します。転居後は住所変更の届け出も忘れずに行いましょう。
自己判断で契約しないこと|支給されないケース

この記事でいちばんお伝えしたい注意点がこれです。船橋市の生活保護のしおりには、住所が変わる場合の届け出に関して「正当な理由がなければ転居の費用は支給できません。必ず事前に地区担当員へ相談してください」と明記されています。つまり、先に自分で物件を契約したり運送費を支払ったりしてしまうと、あとから申請しても認められない場合があるということです。
支給の対象にならない典型は、通知の類型に当てはまらない自己都合の転居や、住宅扶助の基準を超える家賃の物件への転居です。また、一時扶助は事前の申請が原則のため、良い物件を見つけて焦って手付金を払ってしまった、というケースも困りごとの元になります。物件は待ってもらえるか不動産会社に相談し、その間にケースワーカーへ連絡する順番を守りましょう。
「こんなことで相談していいのだろうか」とためらう必要はありません。転居の相談も一時扶助の申請も、制度の中に最初から用意されている正当な手続きです。事情を話すことはわがままではなく、むしろ早く相談するほど選べる道は増えます。断られたように感じた場合も、理由を確認し、納得できないときは福祉事務所の窓口で説明を求めることができます。
引っ越し費用を抑える工夫と業者選びの注意点

引越しの運送費は、一般に荷物の量・移動距離・時期などで変わります。運ぶ荷物を減らしておくことは、見積もり金額を下げる現実的な工夫です。長く使っていない家具や家電は、転居を機に自治体の粗大ごみなどで計画的に手放しておくと、当日の作業もぐっと軽くなります。単身の引っ越し費用の一般的な考え方は、次の記事で詳しく整理しています。
業者選びで気をつけたいのは、トラックで荷物を有償で運ぶ事業には貨物自動車運送事業法にもとづく許可・届出が必要という点です。見積書を福祉事務所に提出するこの手続きでは、書面をきちんと発行できる正規の事業者に頼むことが前提になります。SNSなどで見かける「格安で運びます」という個人請負は、事故や破損があっても補償を受けられないおそれがあるため、書類の面でも安全の面でも避けるのが賢明です。
また、進学・転勤が重なる3〜4月は引っ越しの依頼が集中しやすく、料金が高くなる傾向があるとされています。転居の期日に余裕があるケースなら、時期をずらせないかもケースワーカーとの相談の際に話してみるとよいでしょう。
生活保護の引っ越し費用のよくある質問(FAQ)
※本記事は、厚生労働省の通知および各自治体が公開している資料をもとに、生活保護制度における引っ越し費用の一般的な仕組みを整理したものであり、個々の世帯についての支給の可否や金額を判断するものではありません。制度の運用や基準額は自治体・世帯の状況・時期により異なります。記載の金額・資料の内容は2026年7月の執筆時点のものです。実際の手続きは、必ず担当のケースワーカー・福祉事務所の案内に従ってください。
まとめ|引っ越し費用の相談は「契約前」がすべて
生活保護受給中の引っ越し費用は、国の通知が定める転居理由に当てはまり、福祉事務所が必要と認めた場合に、敷金等の初期費用や運送費が支給される場合があります。立ち退き・災害・老朽・離婚・病気療養上の必要など、通知に挙げられた類型は思ったより幅広く、「自分は無理だろう」と決めつけるのはもったいない制度です。
一方で、どのケースにも共通する鉄則は、自己判断で契約せず、必ず事前に担当のケースワーカーへ相談することでした。相談は制度に最初から用意された正当な手続きです。立ち退き通知や体調の変化など、引っ越しを考える事情が生まれたら、この記事の5ステップを思い出して、まずは福祉事務所への一本の連絡から始めてみてください。