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雨がやんだ翌朝、玄関のたたきやサッシのレールに、細長い虫が何匹も落ちている。外に出てみると、外壁やブロック塀を同じ向きに這い上がっている——梅雨どきや秋の長雨のあと、住まいのまわりでこの光景に出くわす方は少なくありません。
ヤスデは咬んだり刺したりする虫ではないとされていますが、数が多いと気持ちの整理がつかないものです。しかも、殺虫剤をまいても翌日にはまた同じ場所にいる、ということが起こりやすい相手でもあります。理由は、家の中にいる虫を退治しているのではなく、家の外から次々と入ってきているからです。
この記事では、川崎市が公開している「くらしに身近な虫たち」のリーフレット、葉山町・長崎市・静岡県・南国市・島根県浜田保健所の案内、そして国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所と国立研究開発法人国立環境研究所の資料をもとに、なぜ家の中まで入ってくるのかという理由から、庭と基礎まわりで先に手をつける場所までを順にまとめています。読みづらさに配慮して虫の写真は載せず、線画のイラストだけで説明します。


【一言でいうと】ヤスデが家の中に入るのは雨から逃れて壁を登るため|まず確かめる3点

川崎市が公開しているヤスデのリーフレットは、梅雨時期に大発生した個体が「雨上がり、水による溺死を避けるためにブロック塀や壁面に這い上がり、屋内に侵入することがあります」と説明しています。湿気を求めて集まっているというより、水びたしになった地面から逃れた先が、たまたま家の壁だったという流れです。
ですから、見つけた場所によって打つ手は変わります。まずは「どこで」「どんな状態で」見かけたかを、次の表で当てはめてみてください。
| 見かけた場所 | 状態 | 考えられること | 先に手をつけるところ |
|---|---|---|---|
| 玄関のたたき・サッシのレール | 数匹がまとまって落ちている | 外壁を登った個体が扉の隙間から入った | 隙間をふさぐ/滑る素材を貼る |
| 外壁・ブロック塀・共用階段 | 上へ向かって這っている | 雨で地表にいられず上へ移動している | 登らせない対策と発生源の片づけ |
| 庭の落ち葉だまり・鉢やプランターの下 | どけると多数が固まっている | 発生源が敷地の中にある | 落ち葉・刈草・不要物の撤去 |
| 浴室・洗面所・洗濯機まわり | 1〜2匹が乾いた床で弱っている | 換気口や配管まわりから入り込んだ | 水まわりの開口部の点検 |
| 敷地全体 | 数百匹規模が何日も続く | 周辺の山林や畑が発生源の可能性 | 自治体の窓口へ状況を相談 |
※川崎市、葉山町、長崎市、静岡県、南国市、島根県浜田保健所が公開する執筆時点(2026年7月)の情報をもとに、当メディア編集部が住まいの場面別に整理したものです。地域や種類によって出方は異なります。
ヤスデが家の中に入ってくる理由|雨上がりに壁を登る

「湿気が好きなのに、なぜ雨のあとに出てくるのか」は、多くの方が引っかかるところです。行政の資料を並べると、その順序が見えてきます。
ふだんは落ち葉や石の下、雨が降ると地表へ
川崎市のヤスデのリーフレットは、生息場所を「屋外の落ち葉や朽ち木の中、石や倒木の下など湿ったところ」とし、発生時期を4〜7月頃としています。ふだんは土の中や落ち葉の層で暮らしていて、人の目に触れる場所にはいません。
ところが強い雨で地面が水を含むと、そこにとどまれなくなります。葉山町が開いた勉強会の質疑応答の記録でも、土壌の水分が多くなって出てくる説に触れつつ、空気中の湿気が多いと動きやすくなるため移動が増えるとも説明されています。地面から追い出された個体が、垂直な面をたどって上へ向かうわけです。
夜と曇りの日に動きが活発になる
島根県浜田保健所は衛生害虫の駆除例で、ヤスデ類について「一般に温湿度の高い夜間または光の弱い時、曇りの日などに活発に行動します」と記しています。前掲の質疑応答でも、夜のほうが湿度がこもって動きやすく、日中の乾いた熱い地面を歩くのは生き物にとって負担が大きいという説明がされています。
朝になって初めて気づくのは、多くが夜のうちに移動を済ませているからです。数を確かめたいなら、日が落ちてから外壁や塀を見に行くほうが実態に近いと考えられます。
大量に出やすいのは梅雨と秋の長雨
静岡県はヤンバルトサカヤスデのまん延防止のページで、梅雨の大雨で地表に現れ、梅雨明け後は土中や枯れ葉の下に潜み、秋雨のころに再び大量発生し、冬は脱皮を繰り返して越冬するという年間の流れを示しています。長崎市もヤスデの発生にご注意くださいで、集団移動が起きるのは4〜6月と10〜11月の年2回で、雨上がりの夜間に頻繁だと案内しています。
なお静岡県と長崎市、そして葉山町が扱っているのは、台湾を原産とする外来種のヤンバルトサカヤスデです。国立環境研究所の侵入生物データベースでは体長25〜30ミリとされ、住宅街で見かける在来の普通種とは分けて考える必要があります。それでも「雨のあとに集団で動く」という点は共通しており、対策の考え方も重なります。
ヤスデとムカデの違い|脚の付き方・動き・危害で見分ける
細長くて脚が多い虫は、落ち着いて見比べないと区別がつきません。決め手になるのは体の色でも長さでもなく、1つの節から脚が何本出ているかです。下の線画で、見るべき場所を確かめてください。

脚が「1節に2対」ならヤスデ
川崎市のヤスデのリーフレットは、普通種のヤケヤスデを体長約2センチ・幅2ミリ程度・体色は褐色とし、「体の各節から2対の脚が出ています。(ムカデは1対)」と説明しています。同じシリーズのムカデのリーフレットにも、脚が1対ずつ出ていること、頭部に毒をだす顎があることが記されており、2枚を突き合わせると迷いが減ります。
この「倍脚」という体のつくりは学術的にも研究対象になっていて、東京大学大学院理学系研究科は2023年の研究成果の発表で、ヤスデが2対の付属肢を備える重体節を持つこと、脱皮のたびに体節と脚が増えていくしくみを報告しています。脚が異様に多く見えるのは、そもそも節あたりの本数が倍だからです。
動きの速さと、触れたときの反応が違う
国立研究開発法人森林研究・整備機構の森林総合研究所が公開しているキシャヤスデ大発生の謎には、「ヤスデはかみついたりしません。さわるとくるっと体を丸めるので,ムカデと区別できます」という一文があります。ゆっくり歩き、驚くと渦巻き状に丸まるのがヤスデ、素早く逃げるのがムカデ、という覚え方で足ります。
ただし川崎市のヤスデのリーフレットは、防御のために刺激臭のある体液を分泌するとも書いています。咬まないからといって素手でつまむ相手ではありません。ムカデ側の対処や言い伝えの検証は、別の記事にまとめています。
落ち葉を土に変える「分解者」でもある
同じリーフレットは、ヤスデを「主に腐食質を食べる分解者で、益虫です」と位置づけています。森林総合研究所の資料も、山梨県の落葉広葉樹林でキシャヤスデが大発生した1年間に1平方メートルあたり約3キログラムもの落葉を食べ、その地域に1年で落ちる葉の10倍に当たったという調査結果を紹介し、目の敵にせず見守ってほしいと結んでいます。
屋内に入ってきた個体への対処と、庭や周辺の林にいる個体を根絶やしにすることは別の話です。前掲の葉山町の質疑応答でも、薬剤でヤスデ以外の虫まで減らしてしまうと、かえってその後の大発生につながる可能性があるという指摘が記録されています。
どこから入る?ヤスデの侵入経路と家のまわりの点検場所

葉山町の質疑応答には、台所の流しで見つかった理由を尋ねる質問に対し、風呂の換気扇など隙間があればどこからでも入ってきてしまう、という回答が残っています。地上を歩いてくるとは限らないため、点検する場所は「地面の高さ」だけでは足りません。
壁を登るので、上の階からも入ってくる
葉山町が配布しているヤスデ対策のチラシは、外壁や階段、道路に集団発生し、扉の隙間などから室内に侵入してくると説明しています。集合住宅の2階以上でも、外壁づたいに上がってきた個体が共用廊下から玄関まわりへ回り込むことがあります。1階だから、あるいは2階だから安心という切り分けは成り立ちません。
点検するときは、外壁と地面が接する基礎の立ち上がり、雨どいの縦管、エアコンの配管を通した穴、そして玄関ドアの下端という順に、下から上へ目でたどっていくと抜けが出にくくなります。
見落としやすい開口部
- 玄関ドアの下端と、引き戸のレールの端にできた欠け
- 網戸の下部やサッシの水抜き穴、戸車まわりの隙間
- 基礎の換気口・床下点検口のふち
- 浴室や洗面所の換気扇、洗濯機の排水口まわり
- エアコンのドレンホースの先端と、配管を通した壁の穴
- ガレージや勝手口のシャッターの下端
すべてを一度にふさぐ必要はありません。ヤスデを見つけた部屋に近い開口部から順に確かめると、当たりを引く確率が上がります。
ふさぐときは「滑る素材」と「隙間テープ」の組み合わせ
葉山町のチラシは、養生テープ・アルミテープ・ステンレス材など滑りやすい材質のものを塀や壁に貼ると、滑って登れなくなると案内しています。静岡県も同様に、養生テープやステンレス板を家屋の柱や壁に貼る方法を挙げ、ヤスデはつるつるした所を進めないと説明しています。屋内への侵入そのものは、隙間テープでふさぐのが基本です。
前掲の質疑応答では、葉山町環境課が実験に50ミリ幅のテープを使ったこと、効果が薄かった例では貼る位置がずれていたり表面の汚れで登りやすくなっていたりしたことが説明され、2本重ねて幅を出す、定期的に貼り替えるか汚れを拭き取る、といった運用が挙げられています。貼って終わりではなく、点検して続ける前提の対策です。
大量発生を減らす環境改善|落ち葉・鉢の下・側溝を先に片づける

侵入口をふさいでも、敷地内に発生源が残っていれば毎晩のように押し寄せます。南国市の環境課はヤスデの駆除についてで、ヤスデが落葉などのあるところや日当たりの悪い湿気のある場所を好むとして、こまめな清掃を対策の第一に挙げています。順番としては、この章が先です。
1落ち葉・刈草・廃材をためない場所をつくる
川崎市は予防策として、腐った植物を除去する、雑草を刈り取る、落ち葉を捨てる、廃材など不要な物を処理するといった清掃を行い、日当たりをよくすることを挙げています。庭の隅に積んだままの刈草や、雨ざらしのすのこ・木材は、真っ先に片づける対象になります。
2鉢・プランター・置き石の下を持ち上げて確かめる
底に敷いた受け皿やレンガの下は、日が当たらず湿った層ができやすい場所です。持ち上げて多数が固まっているようなら、その一帯が発生源になっています。並べ方を変えて地面との間に空気が通るようにするだけでも、条件は変わります。
3側溝と雨どいの出口を掃除する
静岡県は、土手の草払いや下草刈りを徹底して日当たりをよくすること、側溝は周辺も含めて清掃を徹底して雨水に流されての移動を抑えることを挙げています。国立環境研究所の侵入生物データベースでも、草刈や側溝の掃除で日当たりの悪い湿った場所を減らす予防が示されています。落ち葉が詰まった側溝は、格好の通り道です。
4外壁や塀に滑る素材を帯状に貼る
環境の改善と並行して、登らせない対策を重ねます。玄関まわりや、実際に集中して這い上がっている面から始めると、効いているかどうかを確かめやすくなります。葉山町のチラシは、テープを剥がす際の粘着跡や塗装の剥がれに注意するよう添えています。
5薬剤を使うなら製品表示の使用方法に必ず従う
葉山町のチラシは、薬剤について一時的に効果があってもやがて効きにくくなる耐性が生じることがあり、人や動植物への影響も懸念されるとしたうえで、やむを得ず使う場合は使用上の注意をよく読み、侵入されたくないところだけに帯状にまくと効果的だと案内しています。対象の生き物・使用場所・使用量は製品ごとに決められています。書かれていない使い方をしないこと、ほかの薬剤と混ぜ合わせないこと。この2点は必ず守ってください。
家の中でヤスデを見つけたときの対処とやってはいけないこと

屋内に入った個体は、乾いた床の上では長く動けません。慌てて刺激を与えるより、静かに回収して外へ出すほうが、後始末は軽くなります。
- 熱湯をかける、火であぶる(刺激で気体を出させる行為にあたります)
- 素手でつまむ、素足で踏む、丸まった個体を指でつぶす
- 床や壁の上でつぶして体液を広げる
- 屋外用と屋内用の薬剤を表示と違う場所で使う、複数を混ぜる
- 侵入口を特定しないまま室内へ薬剤をまき続ける
熱湯や火で処理しない理由
葉山町のチラシは、刺激を与えると臭気を発することがあるとして、焼いたり熱湯をかけたりしての駆除を避けるよう呼びかけています。前掲の質疑応答では、その理由として熱湯をかけるとシアン化合物を含むガスが発生すること、ガスを大量に吸うと頭痛や吐き気、下痢といった健康被害が出るためあまり推奨できないことが説明されています。国立環境研究所の侵入生物データベースにも、刺激すると青酸を含む悪臭ガスを放つという記載があります。
浴室や洗面所のように狭く換気の悪い場所で、まとめて熱湯をかけるのは避けてください。もし処理のあとで体調に変化を感じた場合は、換気をしたうえで医療機関にご相談ください。
集めるときと処分のしかた
葉山町のチラシは、ほうきなどではたくと一時的に丸くなって集めやすくなること、集めたらごみ袋にまとめて漏れ出ないようにきつく縛ることを案内しています。同町では、袋に入れた状態で日光に当てておく方法をとったうえで、燃やすごみとして処分するよう説明しています。屋内では、紙や厚紙ですくって袋に入れるほうが体液を広げずに済みます。
掃除機を使う場合は注意が必要です。前掲の質疑応答で葉山町環境課は、吸い込んだものを粉砕するタイプの機種に水分の多い生きた個体を吸い込ませると故障の原因になり得ると説明しています。使うなら紙パック式で、吸ったあとはパックごと外して密閉するのが無難です。同じ多足類でも益虫として知られるゲジについては、こちらの記事で扱っています。
自分で手に負えないときの相談先|業者に頼む前に確認したいこと

敷地の外に発生源がある場合、個人の対策には限界があります。川崎市のリーフレットも、発生源が周辺の山林や畑など範囲が不特定の場合は完全な駆除が困難だと明記しています。無理に一人で抱えず、順に相談先を当たってください。
まずは自治体の生活衛生の窓口へ
虫の相談窓口は自治体によって名称が異なります。横浜市は害虫に関する情報のページで、衛生害虫に関する相談はお住まいの区の福祉保健センター生活衛生課へ問い合わせるよう案内しています。葉山町のように環境部環境課が担当している例もあります。
問い合わせるときは、見かけた場所と時間帯、おおよその数、いつから続いているか、周囲に山林や畑・空き地があるかを整理しておくと話が早く進みます。ただし、多くの自治体は私有地内の駆除そのものは行っていません。葉山町も、町の職員が各家庭のヤスデを駆除しに行くことはしていないと質疑応答で説明しています。
ペストコントロール協会という相談先
葉山町は、一般的な害虫駆除の相談先として公益社団法人神奈川県ペストコントロール協会を紹介していると質疑応答の資料に注記しています。あわせて、相談内容によって業者の紹介を受けられるものの、費用は個人での負担になるとも書かれています。各都道府県に同様の協会があり、自治体の案内から入るのが確実です。
業者に見積もりを依頼する前に整理しておくこと
同じ質疑応答で葉山町環境課は、家の周囲へ薬剤を散布する業者について、効果の持続期間が1か月から1年と様々な声を聞いており、費用に見合った結果が得られるかは分からないため町として紹介はしていない、と率直に述べています。ヤスデだけに効く薬はなく、散布によって周辺の生き物へ影響が出る可能性にも触れられています。
依頼を検討する場合は、散布する範囲と回数、効果がどのくらい続く想定か、雨のあとの再訪はあるか、周辺の植栽やペットへの配慮をどうするかを見積もりの段階で確認し、書面に残しておくと判断しやすくなります。同じく湿気と落ち葉が発生の背景になる虫については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
ヤスデのよくある質問(FAQ)
※本記事の内容は、2026年7月の執筆時点で下記の各機関が公表している資料を当メディア編集部が確認してまとめたものです。参照したのは川崎市、葉山町、長崎市、南国市、静岡県、島根県浜田保健所、横浜市、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、国立研究開発法人国立環境研究所、東京大学大学院理学系研究科、公益社団法人神奈川県ペストコントロール協会が公開する各ページです。葉山町・長崎市・静岡県の記載は外来種ヤンバルトサカヤスデに関するもので、在来の普通種とは分布も出方も異なります。目の前の個体が何かを確定させたいときは、現物を確認できる窓口へお問い合わせください。薬剤をお使いになるときは、その製品のラベルに書かれた用量・使用場所・注意事項に沿ってご使用ください。
まとめ
ヤスデが家の中に入ってくるのは、湿気を求めているからではなく、雨で地面にいられなくなった個体が壁を登った結果です。川崎市のリーフレットが書くとおり、梅雨どきに大発生したものが雨上がりにブロック塀や壁面を這い上がり、扉やサッシの隙間から屋内へ入り込みます。つまり狙うべきは、室内の1匹ではなく、外の発生源と登り口の2か所です。
ムカデとの切り分けは、脚が1つの節から2対出ているか1対かを見れば足ります。ヤスデは咬まないとされる一方で刺激臭のある体液を出すため、素手で扱わない・つぶさない・熱湯や火を使わないという3点は守ってください。
手をつける順番は、落ち葉や刈草・鉢の下・側溝を片づけて発生源を減らし、そのうえで滑る素材と隙間テープで登り口と入口をふさぐ、という流れです。薬剤に頼るのはそのあとで、必ず製品表示の使用方法に従います。敷地の外に発生源があって収まらないときは、自治体の生活衛生の窓口やペストコントロール協会に状況を伝えるところから始めれば十分です。