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親御さんやご親族が亡くなり、残されたのがゴミ屋敷状態の家だったとき、「相続放棄すれば片付けなくて済むのだろうか」「その前に少しだけでも片付けておくべきか」と迷う方は少なくありません。実はこの場面には、法律上の大きな分かれ道があります。相続財産を処分すると単純承認をしたとみなされるおそれがあり(民法921条)、相続放棄という選択肢に影響し得るためです。
この記事では、相続放棄の期限(3か月)と家庭裁判所での手続き、片付けと単純承認の関係、放棄した後も残り得る保存義務(民法940条)といった制度の一般的な仕組みを、裁判所・e-Gov法令検索・法務省の一次資料をもとに当メディア編集部が調査して整理しました。あわせて、放棄しない場合の片付けの進め方と相談先も紹介します。
本記事は法律の個別のアドバイスではありません。片付けてよいかどうかはケースごとに判断が分かれるため、実際に手を付ける前に、必ず弁護士・司法書士へ相談してください。


【一言でいうと】相続放棄したゴミ屋敷は片付けなくていい?
結論からいうと、相続放棄を考えているなら、家の中の物に手を付ける前に弁護士・司法書士へ相談するのが安全です。民法921条は、相続人が相続財産の全部または一部を「処分」したときは単純承認(プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続すること)をしたものとみなすと定めており、家財の処分や売却がこの「処分」に当たると評価されるおそれがあるためです。

また、相続放棄が受理された後も、その家に住んでいるなど財産を「現に占有」している場合には、次に管理する人へ引き渡すまでの保存義務が残ります(民法940条)。「放棄すればすべて無関係になれる」とも言い切れないのが、この問題の難しいところです。まずは状況別の考え方を整理します。
| いまの状況 | 制度上の一般的な位置づけ・とるべき初動 |
|---|---|
| 相続放棄を検討中で、まだ何もしていない | 家の物に手を付けず、期限(知った時から3か月)を意識して弁護士・司法書士へ相談 |
| すでに片付け・処分を始めてしまった | 行為の内容によって扱いが分かれるため、それ以上手を付けずに専門家へ相談 |
| 相続放棄が受理された(家に住んでいる・占有している) | 引き渡すまで保存義務が残る場合がある(民法940条)。処分はしない |
| 相続することに決めた | 通常の片付け・処分に進める。許可のある業者選びへ(この記事の後半で解説) |
相続放棄の期限は3か月|家庭裁判所での手続きの流れ

相続放棄は、口頭で「相続しません」と宣言するものではなく、家庭裁判所に「申述」して行う法律上の手続きです(民法938条)。裁判所の案内ページによると、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選ぶ必要があるとされています(出典:裁判所「相続の放棄の申述」)。大まかな流れは次の3ステップです。
1財産の全体像を把握する(相続財産の調査)
民法915条2項では、相続人は承認・放棄の前に相続財産の調査ができると定められています。預貯金・不動産などプラスの財産と、借金・滞納などマイナスの財産の両方を確認します。ゴミ屋敷の場合は通帳や督促状を探すこと自体に時間がかかりやすいため、早めに動き始めることが大切です。
2期限内に家庭裁判所へ申述する
申述先は、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。裁判所の案内では、費用は申述人1人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手、提出書類は相続放棄申述書のほか、被相続人の住民票除票(または戸籍附票)や申述人の戸籍謄本などとされています。
3判断に迷うときは期間伸長の申立ても
3か月以内に放棄するかどうかを決められない事情があるときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てて、判断の期間を延ばしてもらえる仕組みがあります(伸長を認めるかどうかは裁判所の判断です)。期限が迫ってから慌てないよう、この制度の存在も覚えておきましょう。
もうひとつ注意したいのが、民法919条1項で、相続の承認や放棄は3か月の期間内であっても撤回できないと定められている点です(出典:e-Gov法令検索「民法」)。一度受理された相続放棄を「やっぱりやめた」とやり直すことは原則できません。財産の調査と専門家への相談を経てから、慎重に判断してください。
ゴミ屋敷を片付けると相続放棄できなくなる?単純承認とみなされるおそれ

この記事でいちばん大事な論点です。民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなすと定めています(ただし書きで、保存行為などはこの限りでないとされています)。単純承認になると借金などのマイナスの財産も含めてすべて相続することになり、相続放棄は選べなくなります。
問題は、ゴミ屋敷の「片付け」がこの「処分」に当たるかどうかの線引きが、条文だけでは判断できないことです。同じ「捨てる」「持ち帰る」でも、対象になる物の価値や状況によって評価が分かれ得ます。
| 行為の例 | 一般的な考え方 |
|---|---|
| 家財や貴金属を売ってお金に換える | 相続財産の処分と評価されるおそれが特に大きいとされる行為 |
| 家財・遺品を捨てる | 物の価値や量によって評価が分かれ得る(後から争いになる可能性がある) |
| 形見の品を持ち帰る | 内容・価値により扱いが分かれ得る。自己判断で持ち出さない |
| 建物の破損を防ぐ応急対応など現状維持の行為 | 保存行為は処分に当たらないとされる(民法921条1号ただし書)。ただし、どこまでが保存行為かは個別の判断 |
さらに民法921条3号では、相続放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠したり、ひそかに消費したりしたときは単純承認とみなされる場合があると定められています。「受理されたから、あとは自由に処分してよい」と考えるのも危険だということです。
どの行為が問題になり、どれなら大丈夫かを、この記事で断定することはできません。ゴミにしか見えない物でも、手を付ける前に弁護士・司法書士へ相談する——これが、ゴミ屋敷の相続で後悔しないための原則です。
相続放棄しても管理責任が残る?民法940条の保存義務

「相続放棄すれば、ゴミ屋敷とは完全に無関係になれる」と思われがちですが、そうとも限りません。現行の民法940条1項は、相続放棄をした人が放棄の時にその財産を「現に占有」しているときは、相続人または相続財産清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならないと定めています(出典:前掲のe-Gov法令検索「民法」)。
この規定は、令和5年(2023年)4月1日に施行された民法等の一部改正で整理されたものです。法務省の公表資料によると、旧規定では管理継続義務の発生要件や内容が明らかでなく、相続放棄をしたのに過剰な負担を強いられるケースがあったことから、放棄の時に現に占有している相続財産について、引き渡すまでの間保存しなければならないことを明記したと説明されています(出典:法務省「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要」資料(PDF))。
たとえば、ゴミ屋敷となった実家に同居していた場合と、遠方に住んでいて占有していない場合とでは、位置づけが変わり得るということです。ただし、自分が「現に占有している」に当たるかどうか自体もケースごとの判断になるため、ここも自己判断は禁物です。
相続人全員が放棄したら?相続財産清算人という仕組み
相続人になり得る人が全員相続放棄をすると、財産を引き継ぐ人がいなくなります。この場合に備えて、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任する制度があります。裁判所の案内によると、被相続人の債権者などの利害関係人または検察官の申立てにより、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所が選任し、費用は収入印紙800円分・郵便切手のほか官報公告料5582円、財産の内容によっては清算人の管理費用・報酬に不足が出る可能性がある場合に予納金の納付を求められることがあるとされています(出典:裁判所「相続財産清算人の選任」)。
なお、「ゴミ屋敷そのものより、家(不動産)を今後どうするかで迷っている」という場合は、売却・解体・国の制度など処分の選択肢を整理した記事も参考にしてください。
賃貸のゴミ屋敷と相続放棄|残置物の扱いは特に慎重に

亡くなった方が賃貸住宅に住んでいた場合は、さらに判断が難しくなります。大家さんや管理会社から「早く部屋を空けてほしい」と求められることが多い一方で、残置物(部屋に残された家財)の処分や賃貸借契約に関する対応が、相続財産の処分と評価されるおそれがあるためです。部屋を明け渡すために行った行為が、後から単純承認とみなされるかどうかで争いになる可能性は否定できません。
とはいえ放置すれば、家賃や明け渡しの問題が膨らみ、大家さん側の負担も大きくなっていきます。一般的な進め方としては、①相続放棄を検討している旨を大家さん・管理会社へ早めに伝える ②残置物には手を付けない ③具体的な対応方法を弁護士・司法書士に相談する、という順序が考えられます。
「今日中に運び出してほしい」と迫られても、その場で応じる前に専門家へ確認を。これは賃貸に限らず、ゴミ屋敷の相続全体にいえることです。
相続放棄はどこに相談する?相談先の一覧

相続放棄は期限のある手続きです。「誰に相談すればいいか分からない」まま時間が過ぎるのがいちばんもったいないので、次の窓口を入り口にしてください。当メディアでは個別のご事情への助言はできません。
| 相談したいこと | 主な相談先 |
|---|---|
| 費用を抑えて相談したい・どこに頼むか決まっていない | 法テラス(日本司法支援センター)。収入等の条件を満たす方向けの無料法律相談や、弁護士・司法書士費用の立替制度を案内している公的な窓口 |
| 片付けてよいかの判断・単純承認をめぐる交渉やトラブル | 弁護士(各地の弁護士会の法律相談窓口) |
| 相続放棄の書類作成や登記に関する相談 | 司法書士(各地の司法書士会の相談窓口) |
| 申述の手続き・必要書類の確認 | 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所(手続案内) |
各窓口の公式サイトはこちらです:法テラス(日本司法支援センター)/日本弁護士連合会/日本司法書士会連合会。お住まいの地域の相談窓口を探すところから始めてみてください。
相続放棄しない場合|ゴミ屋敷の片付けの進め方

財産の調査や専門家への相談を経て「相続する」と決めた場合は、ここから片付けの実務が始まります。大枠の流れは、①権利証・通帳・保険証券などの貴重品と書類を最優先で確保する ②残す物・供養する物・処分する物に仕分ける ③量が多ければ業者に依頼するの3段階です。
業者に頼む場合に欠かせないのが、許可の確認です。家庭から出るごみの収集運搬を業として行うには、廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)に基づく市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可(または市区町村からの委託)が必要です。ゴミ屋敷の片付けでは搬出量が軽トラック数台分を超えることも珍しくなく、許可の裏付けがない相手に渡した廃棄物が不法投棄された場合、出した側が責任を問われる可能性も指摘されています。見積もりの席で「家庭ごみをどの市区町村の許可・委託で運ぶのか」を具体的に尋ね、回答が曖昧な業者には依頼しないことが、高額請求などの金銭トラブルの予防にもつながります。
業者の選び方・費用の目安・依頼の流れは、ゴミ屋敷の片付け業者の記事で詳しく解説しています。
また、故人の思い出の品を丁寧に扱いながら進めたい場合は、遺品整理として依頼する方法もあります。間取り別の費用相場はこちらの記事を参考にしてください。
ゴミ屋敷の相続放棄のよくある質問(FAQ)
※本記事は相続放棄に関する制度の一般的な情報の提供であり、法律の個別のアドバイスではありません。条文・手続き・費用は執筆時点(2026年7月)の裁判所・e-Gov法令検索・法務省等の公表情報に基づきます。個別の判断は必ず弁護士・司法書士等の専門家にご相談ください。
まとめ
ゴミ屋敷の相続放棄でいちばん大切なのは、「片付けるかどうか」を考えるより先に「手を付けない」ことです。相続財産の処分は単純承認とみなされるおそれがあり(民法921条)、相続放棄には知った時から3か月という期限があります(民法915条)。そして放棄が受理された後も、現に占有している財産には引き渡すまでの保存義務が残る場合があります(民法940条)。
迷ったら、法テラスや弁護士・司法書士への相談を最初の一歩にしてください。財産を調べたうえで相続すると決めたときは、一般廃棄物収集運搬業の許可・委託を確認できる業者とともに、片付けの実務へ進んでいきましょう。